理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1565
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理学療法基礎系
脳血管障害に対する術後早期理学療法及びベッドアップが頭蓋内圧に及ぼす影響
松井 信也重田 瞳浅井 貴子荒木 綾平関根 龍志摩 耕平原 隼也山崎 里美今井 崇生方 瞳八高 拓也李 範爽清水 常正安達 直人西松 輝高
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抄録

【目的】脳卒中リハビリテーションにおいて急性期から積極的にリハビリテーションを行うことは、予後を改善するとされ強く推奨されている.さらにその具体的なプログラムである早期離床や呼吸訓練、関節可動域訓練といった早期理学療法は、誤嚥性肺炎や廃用症候群などの合併症予防においても重要であるとされている.
その一方で早期離床に伴う起立性低血圧や他動的運動よる脳浮腫の助長といったリスクは、理学療法を進める上で常に留意するべきものである.そこで今回術後早期のベッドアップおよび関節可動域訓練、呼吸訓練といった徒手的理学療法が、リスク管理上重要となる頭蓋内圧(Intracranial Pressure:ICP)にどのような影響を及ぼすかを検証することを研究の目的とした


【方法】当院に入院し、手術適応かつICPモニター管理となった患者7名(男性4名、女性3名.平均年齢64.3±12.3歳、発症から手術に至った平均日数2.3±1.4日)を対象とした.患者の内訳は、脳出血5例、くも膜下出血1例、急性硬膜下血腫1例.重症度は発症時意識レベルJCS1桁0例、2桁5例、3桁2例であった.ICP測定方法は、安静時(仰臥位)のICP値と各動作の1分後のICP値を記録し比較を行った。安静時との比較動作は、徒手的呼吸介助、他動的関節可動域訓練、ベッドアップ30度及び60度とした.またICP測定は、術後からICPセンサーが抜去されるまでの期間にて実施したが、比較データは、術後翌日、3日目、4日目、5日目のものを採用した.なお当院のICP測定には、コッドマンICPモニタリングシステムが使用されており、センサーは硬膜下設置である.

【結果】安静時(仰臥位)のICP値を徒手的呼吸介助後と他動的関節可動域訓練後の値と比較したところ有意な差はみられなかった(Wilcoxon符号付順位検定、P<0.05).また安静時(仰臥位)、ベッドアップ30度と60度におけるICP値の多重比較においても有意な差はみられなかった(フリードマン検定、P<0.05).血圧変化に関しても同様にICP測定前後における変化は認められなかった(Wilcoxon符号付順位検定、P<0.05).なお実施後の意識レベルの低下や麻痺の増悪等も生じることはなかった.


【考察】脳卒中リハビリテーションの開始時期及び方法に関して統一した見解は無く、十分な科学的根拠がないのが現状である.ただし可及的早期から座位をとらせることの必要性についての見解は一致している.
今回の結果では、術後急性期の理学療法やベッドアップはICP値に有意差を生じるほどの変化は認められなかった.また実際の計測中においてもICP値の著明な上昇は、確認されなかった.これは早期理学療法及び離床を進めるうえでの指標として有用であると考えられる.


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© 2008 日本理学療法士協会
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