理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 693
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理学療法基礎系
重錘負荷による大腿四頭筋筋力増強の運動力学的考察(第2報)
抗力モーメントの操作による効率化の試み
*畠中 泰彦中俣 孝昭久保 秀一
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抄録

【目的】大腿四頭筋の筋力増強法として椅座位での重錘負荷は臨床において多用されてきたが、治療の方法に科学的論拠が求められる現在、依然として負荷量の決定は経験と勘に頼る部分が多い。我々は実際の運動負荷は重錘による静的な抗力のみではないことを指摘した。さらにトレーニングの短期効果については動作特異性の観点から日常生活の筋収縮に近い運動パターンが適当だが、運動の終末域で最大となる椅座位での運動は妥当性について疑問が残る。大腿四頭筋の最大筋力は屈曲60~70度で発揮するので、この筋の長さ張力関係に基づく負荷によって1回の運動でより大きな張力とエネルギーの発生が期待できると仮説を立てた。
【方法】事前に実験の目的と安全性について説明を行い、同意の得られた健常男性20例(年齢21.8±0.8歳,身長1.71±0.58m,体重65.8±8.3kg)を対象とした。予め全員の1RMを計測し、最小者の70%1RM(13kg)を負荷量とした。運動速度は60度/秒に設定した。膝伸展は角運動だが、重錘による抗力は鉛直下向きなので、本研究では重力による抗力モーメントを操作するため体幹、大腿、下腿の傾斜が設定可能な架台を作成した。運動開始時の股関節、膝関節屈曲角度を各90度とし、体幹と床面のなす角を90度(座位)から0度(臥位)まで30度毎の計4肢位(以下、傾斜90、60、30、0度と略す)各5回、膝伸展運動を行わせた。重錘負荷は足関節を固定、足部の重心直下に重錘固定用の装具を用いた。被験者の体表上に赤外線反射マーカを貼付し、標点位置計測装置(VICON社:VICON612)を用いて関節点の空間座標を計測した。逆動力学的手法を用いたモデル解析により膝関節の関節角度、関節モーメント、発生エネルギーを算出した。なお、本研究は学内臨床試験倫理審査委員会の承認の下、実施した。
【結果】座位において運動の終末域で膝関節最大伸展モーメントを認めたが、体幹傾斜の減少に伴い最大関節モーメントは運動開始域に移動した。特に傾斜30度、0度において最大関節モーメントは屈曲60~70°でみられた。関節モーメント最大値は傾斜60度と30度の間に有意差を示し、傾斜30、0度では傾斜90、60度より増大していた。同様に発生エネルギーも傾斜30、0度では傾斜90、60度より増大する傾向がみられた。
【考察】同一の重錘でも関節モーメントとして大腿四頭筋にかかる負荷は姿勢により変化した。1回の運動で最大の発生エネルギーが得られる運動パターンは、運動した角度でのみ最大の効果を発揮する角度特異性を考慮すると全ての角度で最大の効果が期待できる。また、運動の繰り返しによりエネルギーを発生する方法は、筋力増強と言うよりむしろ筋持久力増強法として位置づけられる。本法は特に糖尿病等の長時間のトレーニングが困難な患者に応用可能と考えた。

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© 2007 日本理学療法士協会
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