理学療法学Supplement
Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1117
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生活環境支援系理学療法
頸髄損傷者における電動車いす段差昇降時の姿勢変化
*岩崎 洋吉田 由美子中村 優子大熊 雄祐塚田 敦史
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抄録

【目的】電動車いすを使用している高位頸髄損傷者では,段差を走行すると姿勢の崩れ等の変化を経験することがある.当院では姿勢の変化を軽減させるために,段差ではティルトにより,座面角度を大きくして走行する様に練習することがある.今回はティルトによる段差昇降時の姿勢変化を動作解析にて,我々が施行している練習の有効性を検証した.

【方法】対象者は研究主旨,内容,安全性の説明を行い,同意を得た男性・37歳・受傷後18ヶ月経過,機能レベルは頸髄4番,MMTは頸屈曲,伸展ともGである.電動車いすはInvacare社製Arrowであり,操作方法は,ミニジョイスティック(DYNAMIC社製)によるチンコントロールである.車いす座位姿勢は日常使用しているROHOクッション(厚さ100mm)上に保持し,伸縮性のあるベルトで胸部と前腕部をサポートした.段差は20mmと40mmとし,進入速度は時速2kmである.ティルトは座面角基準で,日常で段差走行する際の角度(以後,普段とする),7°,15°,25°の条件とし,昇りと降りの走行実験を行った.走行をデジタルビデオ2台で記録し, 動作解析装置(Move-tr3D;ライブラリー社製)に取り込んだ.なお被験者の負担を考慮し,各条件1回のみの測定とした.座面重心位置を評価するためフォースプレートをクッション下の座面上に設置した.評価指標としては頭頂,耳孔,肩峰にマーカを取り付けた.そして,前輪が段差に進入する直前の各マーカ位置に対する,段差走行中の各マーカ位置の差を,偏差と定義して指標とした.フォースプレートより求めた重心位置から,走行開始時と停止時の位置の変位を求め,姿勢変化の指標とした.

【結果と考察】段差昇降時の耳孔の偏差は昇り 20mm普段/115.215mm,7°/86.875mm,15°/89.399mm,25°/51.786mm.降り20mm普段/82.084mm,7°/78.751mm,15°/79.544mm,25°/69.584mm.昇り40mm普段/137.804mm,7°/176.139mm,15°/162.528mm,25°/149.890mm.降り40mm普段/128.409mm,7°/213.402mm,15°/206.37mm,25°/166.612mmであった.頭頂,耳孔,肩峰いずれも昇り降りともに段差40mmで偏差が大きかった. 座面重心位置において前後方向変位の段差40mmの降りを除き,段差降りでは普段の条件と7°は,前方への変位が生じたのに対して,15°と25°は,後方への変位であった.段差40mmの降り走行は前方への変位が大きいが,25°では変位がほとんどなかった.左右方向は,25°以外の角度条件で4~8mmの変位が現れたが,25°は2mm未満に低減された.ティルト角度を大きくすることで,バックサポート等の支持により外乱や重力に対する安定性が向上したことが考えられる.以上により,姿勢変化(崩れ)の観点からは,ティルト操作が有効であることが伺われた.


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© 2006 日本理学療法士協会
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