理学療法学Supplement
Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 651
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教育・管理系理学療法
実習経験の有無がジレンマストーリーの判断過程に及ぼす影響
*井上 佳和宮本 謙三宅間 豊宮本 祥子竹林 秀晃岡部 孝生
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抄録

【目的】
 我々は理学療法場面におけるジレンマストーリーを独自に作成し教育ディベートを通して情意領域教育に活用している(第31回本学会)。ジレンマストーリーの判断過程には道徳性発達が影響していると考えられるが,今回,臨床評価実習経験をもつ3年生と,もたない2年生の間での差異について検討したので報告する。
【方法】
 本校理学療法学科2年生(32名)と3年生(24名)に対し「中庭の散歩」と題したジレンマストーリーを読ませ「散歩に行くべき」「行くべきではない」「わからない」の中からとるべき態度を判断させた。その上で判断に影響すると思われる6要因について重要度を答えさせ更に判断理由について自由記載させた。「中庭の散歩」はPTSが担当となった頚損患者の訓練意欲を高めるために中庭の散歩を始めたが,看護部門や同室患者からの注意を受け,明日からの散歩を続けるか迷う内容であり,患者からの約束を守るという信頼関係と,他の患者との公平性の間に葛藤場面を設定したものである。判断に影響する要因はコールバーグの道徳性発達理論を参考に,罰と権威への服従,報酬や感謝,信頼関係,秩序維持,公平性,個の最良の6項目を設定し,それぞれについて「非常に重要5点」から「全く重要でない1点」の5件法より1つを選択させた。6要因の学年間比較をおこなうにあたり要因別の中央値と平均値の算出をおこない,中央値の差の検定としてマンホイットニー検定(有意水準5%)をおこなった。また自由記載内容の解析もおこなった。
【結果】
 両学年共に信頼関係(2年平均4.6点,3年平均4.6点)と個の最良(2年4.5点,3年4.8点)の2要因が中央値5点(非常に重要)で最も高く,次いで秩序維持(2年3.8点,3年3.6点),公平性(2年4.1点,3年3.7点)が中央値4点(かなり重要),罰と権威に服従(2年2.8点,3年2.8点)が中央値3点(いくらか重要)となり,報酬や感謝(2年2.2点,3年2.3点)は中央値2点(あまり重要でない)と最も低かった。中央値の差の検定では6要因すべてに有意差は認められなかった。
【考察】
 実習経験の有無に関わらず多くの学生が患者との信頼関係や個々に対する最良の対応を判断の基準とじて重要視していることが明らかとなった。6要因について学年間差異は認められなかったが,道徳的発達は葛藤を経験するという主体的認知的経験が関与すると報告されていることから,実習期間中における葛藤経験が影響すると考えられ,その意味では今回対象とした3年生の実習期間は2週間と短かったことが影響したと考えられる。また自由記載から2年生では社会秩序維持の観点はあるものの公平性は治療訓練の公平性ではなく機会の公平性に重点が置かれていると考えられた。

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© 2004 日本理学療法士協会
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