理学療法学Supplement
Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 580
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神経系理学療法
複数の障害を有する多発性脳梗塞患者への簡易型電動車椅子を使った理学療法の経験
*石田 弘田沼 志保宮原 夏子
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抄録

【目的】今回,早期より移動手段に簡易型電動車椅子(以下EWC)を導入し,機能改善に好影響を与えた一例を経験したので報告する.
【症例】76歳,男性.診断名:多発性脳梗塞.現病歴:2002/12/25右小脳,右視床,左後頭葉の脳梗塞発症.12/31両側小脳,両側視床の脳梗塞再発.2003/2/27当院入院.既往歴:右先天性股関節脱臼,脊椎カリエスによる右股関節外側排膿後可動域制限.58歳で脳梗塞,軽度右下肢麻痺残存.75歳で左膝OAのため,TKA施行.
【初期評価】JCS10.時々わかる言葉がある程度の構音障害があった.急に奇声を上げるなど譫妄様の言動があった.両側股関節,膝関節に可動域制限があり,脚長差が16cmあった.両側上下肢に分離運動はあり,軽度の失調症状があった.握力は右0,左5.3kg.MMTでおおむね右上肢3,左上肢3+,両側下肢2-であった.簡単な従命動作は可能.寝返りは柵を使用し口頭指示.端座位は後方転倒傾向だが近位監視.起き上がり,移乗は全介助.車椅子座位耐久性は30分.ADLは食事がベッド上ギャッジアップにてスプーンを使用し自力摂取可能.他は全介助.尿意の訴えはなく失禁.FIM28点(運動17,認知11).
【プログラム】約5回/週のPT施行.初期よりROMex,寝返り,端座位での運動を開始.1週間後よりEWC使用開始.2週間後より斜面台での起立開始.1ヶ月後より介助での立ちあがり開始.
【EWC使用方法】病室と理学療法室の移動に使用.片道走行距離約50m.カーブ5ヶ所.基本的に近位監視で危険と感じたら介助.途中のエレベーターは全介助.初期はジョイスティックの操作を介助しながら指導.直進の方向修正にも介助が必要な状態であった.ジョイスティック操作で移動できることはある程度理解している様子で,操作中は目を見開き前方に注意を向けていることが観察された.
【中間評価】1.5ヶ月後,JCS3.会話時の発語は,話の内容を知っていれば理解可能.MMTで両側下肢3~4.起き上がりは中等度介助.端座位遠位監視.移乗は最大介助.車椅子座位耐久性は2時間以上.屋内平地で車椅子を15m以上手動駆動し直進や方向転換可能.昼食は車椅子上で摂取.半分は失禁だが,ナースコールを使用し尿意を訴え,介助での尿器使用可能.MMSE10/30.コース立方体IQ37.5.FIM43点(運動22,認知21).その後の改善も望まれたが,入院後2ヶ月で脳梗塞再発のため転院.
【まとめ】早期よりPTプログラムに,移動を伴う動的座位としてEWC乗車を導入した.その結果,全般的な機能の改善が認められた.要因としてEWC操作時の前庭迷路や体性感覚への刺激,四肢や体幹の同時収縮を促す運動効果,操作に必要な情報処理,そして,移動の介助量軽減に伴う主観的幸福感の増加が考えられた.今後は,治療手段としてのEWC導入効果について,症例数を増やし科学的根拠を検討していく.

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© 2004 日本理学療法士協会
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