理学療法学Supplement
Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 932
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理学療法基礎系
低温刺激によるラット骨格筋の廃用性筋萎縮の進行抑制効果について
*吉川 紗智渡部 由香中居 和代片岡 英樹豊田 紀香中野 治郎沖田 実
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抄録

【目的】 先行研究において、哺乳動物を低温環境で飼育すると骨格筋には筋線維肥大や筋線維タイプ組成の変化、毛細血管数の増加など、持久的運動を行った場合と類似した変化が生じることが報告されている。したがって、これらの知見を参考にすると低温刺激は筋萎縮の予防にも効果が期待できるが、この点を検討した報告は少ない。そこで本研究では、10°C、20°Cの低温刺激によるラット骨格筋の廃用性筋萎縮の進行抑制効果を検討した。
【方法】 7週齢のWistar系雄ラット20匹を1)対照群(C群、n=5)、2)後肢懸垂群(HS群、n=5)、3)HSの過程で毎日1時間、麻酔下で10°C(n=5)、20°C(n=5)の冷水浴によって後肢に低温刺激を暴露する群(HS&Cold群)に分けた。そして、1週間の実験期間終了後にヒラメ筋、長趾伸筋を採取し、その凍結横断切片をATPase染色、アルカリフォスタファーゼ染色し、各筋線維タイプの直径と筋線維あたりの毛細血管数を計測した。
【結果】 1)筋線維直径:C群に比べHS群は、ヒラメ筋のタイプ1・2線維と長趾伸筋のタイプ2B線維が有意に低値であった。そして、ヒラメ筋のタイプ1線維は10°C、20°Cとも、タイプ2線維は10°CのみHS&Cold群がHS群より有意に高値で、長趾伸筋のタイプ2B線維は10°C、20°CともHS&Cold群とHS群に有意差を認めなかった。2)毛細血管数:ヒラメ筋では10°Cのみ、長趾伸筋では10°C、20°Cとも HS&Cold群がHS群より有意に高値であった。
【考察】 1週間のHSによってヒラメ筋のタイプ1・2線維、長趾伸筋のタイプ2B線維に筋線維萎縮の発生を認め、これらの筋線維萎縮の進行抑制に対して、10°Cの低温刺激ではヒラメ筋のタイプ1・2線維に、20°Cの低温刺激ではヒラメ筋のタイプ1線維のみに効果が認められた。したがって、低温刺激の暴露は、その実施温度が低いほど筋線維萎縮の進行抑制に効果的であると思われる。また、今回の長趾伸筋の結果と、ヒラメ筋を構成するタイプ2線維のほとんどは2A線維であることを併せて考えると、タイプ2B線維に対する上記の効果は得られにくいと言える。次に、ヒラメ筋、長趾伸筋とも低温刺激の暴露によって筋内の毛細血管数が増加したが、これは先行研究によれば、低温刺激の暴露による筋内への酸素供給の低下を補う骨格筋の適応現象であるとともに、ミトコンドリア関連酵素の活性促進にも関与するとされる。つまり、筋線維の代謝特性から考えると長趾伸筋に比べヒラメ筋はその活動維持に酸素供給が必要であり、低温刺激による毛細血管数の増加は筋線維萎縮の進行抑制効果となんらかの関連があると思われる。しかし、タイプ2B線維の筋線維萎縮の進行抑制に対する低温刺激の効果が認められなかった要因は不明であり、今後明らかにすべき課題である。

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© 2004 日本理学療法士協会
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