「生物学的相分離」という単語を耳にしたことはあるだろうか.液-液相分離(liquid-liquid phase separation: LLPS)は,分液漏斗の中で水層と油層が分離するようなごくありふれた現象であるが,いま細胞内におけるLLPSが生物学的相分離として注目を集めている.細胞内のタンパク質やRNAなどの分子は,ドロップレット(液滴)と呼ばれる会合体を形成し,外の環境と独立した「膜のないオルガネラ」を形成することが分かってきており,分子生物学の分野に新たなパラダイムを引き起こしている.「相分離メガネをかける」とは,我が国における生物学的相分離研究の第一人者,白木賢太郎氏の言葉だ.言い換えれば,さまざまな生命現象に生物学的相分離の概念を持ち込んで再考することである.この概念が低分子創薬の現場にも広がりつつある.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Babinchak W. M. et al., Nat. Commun., 11, 5574(2020).
2) Girdhar A. et al., Int. J. Biol. Macromol., 147, 117-130(2020).
3) Prasad A. et al., Sci. Rep, 6, 39490(2016).