日本繁殖生物学会 講演要旨集
第114回日本繁殖生物学会大会
セッションID: P-86
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ポスター発表
精子の前培養時間は凍結乾燥精子の質に影響を与える
*江村 里南若山 清香伊藤 大裕大我 政敏若山 照彦
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抄録

【目的】一般に精子の前培養は,精子に受精能を獲得させ体外受精の成功率を高めるために行われている。しかし凍結乾燥精子は顕微授精で受精させるため,精子の前培養は必要ないと考えられてきた。だが,受精能を獲得した精子を凍結乾燥に用いることで,凍結乾燥精子の低い産仔率を改善できるかもしれない。そこで本研究では,凍結乾燥精子を作製する前にさまざまな時間で精子の前培養処理を行い,前培養の効果について検討した。【方法】ICR系統の雄マウスの精巣上体尾部から精子を採取し,0,1,6,24時間の精子前培養を行った後,液体窒素で凍結し,6時間の真空乾燥処理によって凍結乾燥精子を作製した。作製した凍結乾燥精子は使用するまで–30℃で保存し,実験当日に加水し,常法に従って顕微授精を行った。顕微授精にはICR系統の卵子を使用した。顕微授精胚は120時間培養後,胚盤胞までの発生率,胚盤胞のICM/TE 細胞数,およびTUNEL法によるDNA損傷率を調べた。また,2細胞期胚で偽妊娠雌マウスへ移植を行い,産仔率の比較も行った。加えて,それぞれの前培養時間ごとにコメット法による精子DNAの損傷率も比較を行った。【結果】胚盤胞への発生率は,前培養0時間と比較して前培養1時間で明らかな向上がみられた(0時間:39% vs.1時間:64%)。しかし,さらに長い前培養を行うと前培養時間の増加に伴って発生率は低下した。胚盤胞での細胞数やDNA損傷率に関しては,前培養時間ごとに大きな差はみられなかった。また,産仔率に関しては,胚盤胞までの発生率の結果と同様に前培養1時間で改善した(0時間:14% vs.1時間:24%)。一方,精子DNAの損傷率は前培養時間の長さに比例して増加した。【考察】本研究によって,凍結乾燥精子作製においても,精子の前培養による受精能獲得が重要であることが示唆されたが,前培養時間が増えるにつれて精子DNAのダメージが増加するため,最適な前培養時間の決定が必要である。

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