日本繁殖生物学会 講演要旨集
第114回日本繁殖生物学会大会
セッションID: AW-6
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受精・発生
マウス初期胚発生におけるヒストンアルギニンメチル化酵素Prmt6の翻訳制御の解明
*本多 慎之介池田 俊太郎南 直治郎
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抄録

【目的】Class III内在性レトロウイルス(ERVL)は哺乳類の胚性ゲノムの活性化時期において様々な遺伝子とのキメラmRNAとなって転写される。我々はこれまでの研究で,マウス2細胞期後期胚においてヒストンH3の2番目のアルギニン残基(H3R2)をメチル化することが知られているPrmt6がERVLとのキメラmRNAとなって発現していることを発見した。ERVL-Prmt6キメラmRNAでは,通常の翻訳開始コドンの上流に新たな翻訳開始コドンとなりうる配列が2か所にコードされていたため,本研究ではERVL-Prmt6キメラmRNAの翻訳開始コドンの特定を行った。【方法】マウス1細胞期胚にERVL-Prmt6キメラmRNAおよび通常のPrmt6 mRNAを顕微注入し,ウエスタンブロットによって翻訳されたタンパク質の分子量を推定した。また,2か所の翻訳開始コドンの候補の配列ATG(メチオニン)をそれぞれAAG(リジン)に置き換えたERVL-Prmt6変異キメラmRNAを顕微注入することによって,翻訳開始コドンの推定を行った。【結果】ERVL-Prmt6キメラmRNAの過剰発現胚では通常の45 kDaと異なる52 kDaのPRMT6タンパク質が増加した。また,通常の転写開始コドンから99 bpと168 bp上流の翻訳開始コドン候補配列(ATG)をそれぞれリジン(AAG)に置換したERVL-Prmt6キメラmRNAを過剰発現させたところ,168 bp上流のATGを置換したmRNAの過剰発現胚では52 kDaのPRMT6タンパク質の過剰発現が認められなかった。これらの結果から,ERVL-Prmt6キメラmRNAでは翻訳開始コドンが168 bp上流のATGに置き換わることによって通常より長いタンパク質を翻訳していることが明らかになった。胚性ゲノムの活性化時期にERVLとのキメラmRNAから翻訳されるタンパク質を探索することで,細胞分化を制御する哺乳類初期胚特有の新たな因子が見つかる可能性がある。

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