日本繁殖生物学会 講演要旨集
第114回日本繁殖生物学会大会
セッションID: AW-2
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卵巣・卵子
マウス体外成長卵母細胞の発生能に影響しうる因子の探査
*高島 友弥藤丸 翼尾畑 やよい
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抄録

【目的】体外成長培養(IVG)は,発生能を持たない成長期卵母細胞から機能的な卵子の作出を可能にする。これまでに低酸素条件のIVGは卵子の発生能を向上させると報告されてきたが,その機序の理解には至っていない。本研究では卵子の発生能獲得機序の理解を目的とし,異なる酸素条件で作出されたIVG卵母細胞の遺伝子発現動態およびミトコンドリア機能を解析した。【方法】10日齢BDF1マウスから単離した二次卵胞を7%および20%O2条件にて12日間IVGを行った。次にscRNA-seqにより卵母細胞の遺伝子発現動態を解析した。また卵母細胞のミトコンドリア機能は膜電位,mtDNAコピー数およびATP量により評価し,セラミド量はLC-MSにより測定した。【結果と考察】IVG卵子の受精後の胚盤胞期への発生率は20%群で40%,7%群で77%と有意に向上した。次に階層的クラスタリング解析から7%群の遺伝子発現動態は20%群よりもin vivo群に近いことが分かった。20%群における発現変動遺伝子のパスウェイ解析から,セラミド合成の異常亢進が示唆された。卵母細胞内のセラミド含量を測定した結果,in vivo群および7%群と比べ20%群で有意に増加していた。また,ミトコンドリア膜電位は20%群で顕著に低下し,mtDNAコピー数はIVG群で共通して低下したが,ATP量に差は認められなかった。セラミドはミトコンドリアの損傷をもたらすことが知られることから,酸素条件による発生能の差に寄与する一因としてセラミド代謝制御とそれに伴うミトコンドリア損傷が示唆された。またin vivo群に特に近い遺伝子発現動態を示す7%群の3検体では,IVG群で発現低下する転写因子の発現が回復し,これに成長期移行に必須なNoboxが含まれた。卵母細胞成長過程でのNoboxの機能は不明だが,発現動態の相関性から87遺伝子が下流遺伝子候補として抽出された。この中にはGdf9など卵子形成に必須なものが多数含まれNoboxの発生能獲得への関与が示唆された。

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