日本毒性学会学術年会
第49回日本毒性学会学術年会
セッションID: S30-3
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シンポジウム30
動物モデルを用いた環境化学物質の発達神経毒性評価:毒性エンドフェノタイプ
*掛山 正心
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抄録

精神疾患の研究におけるエンドフェノタイプという概念は遺伝学とは少し異なり、疾患を表現型とした時に疾患の背景にある定量可能な指標を意味する。精神疾患の症状の種類や強さに個人差が大きいことなどから、診断の有無や疾患名でグループ分けをするよりも、脳神経画像や生化学的・生理学的指標といった疾患の背景にある定量指標エンドフェノタイプをもとに病態の意味を捉えたり病因を解明しようという戦略である。最近では、認知テストについてもエンドフェノタイプすなわち定量指標の一つとして捉える潮流も大きくなってきた。

原因と定量可能なエンドフェノタイプとの関係、エンドフェノタイプと症状・病態との関係のそれぞれをクリアにしていこうという考え方は、発達神経毒性評価においても極めて有効だと思われる。脳は最後のフロンティアと言われるほど未解明なことが多いが、毒性評価は今行う必要がある。毒性研究の存在意義は影響を未然に防ぐことにあるので、ネズミの能力はヒトと一致しないからと評価から排除することも危険を伴い、ネズミの行動スコアを「学習能力低下」などのあやふやな結論と結びつけることにも危険が伴う。

発達神経毒性の評価においては、再現性のある定量指標を毒性試験のエンドフェノタイプとして明確にすることが先決であり、次に複数のエンドフェノタイプによって影響の意味を明らかにする、すなわち影響の生物学的意味とヒトへの外挿性を検討する戦略が必要に思われる。エンドフェノタイプとしての定量化とエンドフェノタイプ同士の整合性を確認していくことで、最先端のサイエンスと毒性評価が併存し相乗的発展が期待できると期待する。本講演では、我々が取り組んでいる行動レベル、神経活動レベル、分子レベルの指標を毒性エンドフェノタイプと捉え、指標のデジタル化の試み、霊長類であるマーモセットへの適用の試み等を紹介しながら、今後の毒性試験のあり方について議論したい。

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