主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
【目的】
非臨床安全性試験では眼に対する薬物の影響を評価するために眼科検査が実施される.近年カニクイザルを用いた試験では視覚に直接影響する網膜の形態変化をより精査するために光干渉断層計(OCT)検査が汎用されるようになってきた.糖尿病網膜症や緑内障では網膜の肥厚や菲薄化が生じる.網膜各層の厚さの数値化は網膜毒性の客観的評価に役立つ.しかし,カニクイザルにおける網膜各層の厚さに関する基礎的定量データの報告は少ない.また,網膜電図(ERG)パラメータは網膜を構成する様々な細胞の機能を反映する.本研究では,カニクイザル10匹用いて,OCTで網膜各層の厚さを測定した.併せて全視野ERG検査を実施し,網膜各層の厚さとERG波形との関連性について考察した.
【材料・方法】
カンボジア産カニクイザル(5~6歳齢,雄10匹)を用いた.OCTは視神経乳頭と中心窩を通る水平面と中心窩を通る垂直面を撮影し,中心窩から上下左右に500 μm間隔で2500 μmまで網膜全層と各層(神経線維層,神経節細胞層,内網状層,内顆粒層,外網状層,外顆粒層,網膜色素上皮層)の厚さを測定した.ERGは,国際臨床視覚電気生理学会のプロトコールに従い測定した.
【結果・考察】
OCTによる網膜全層の厚さ計測では中心窩から上方下方鼻側耳側いずれも1000 μmの部位が最も厚かった.特に中心窩から鼻側と腹側で厚い傾向を示し,中心窩の厚さに対して約70%厚さが増した.ERGでは律動様小波で低値を示す個体がみられたが,今回の結果から網膜の厚さとERGの電位には明らかな相関関係はみられなかった.
以上,本研究で収集した網膜各層の厚さ及びERGパラメータの基礎的定量データが,薬物の網膜毒性評価の指標として活用されることを期待したい.