ADRA(Amino acid Derivative Reactivity Assay:OECD TG442C)は、皮膚感作性発症の初期段階であるハプテンと生体内タンパク質の共有結合性を評価する試験法である。アミノ酸誘導体であるN-(2-(1-naphthyl)acetyl)-L-cysteine(NAC)及びα-N-(2-(1-naphthyl)acetyl)-L-lysine(NAL)を被験物質と反応させ、反応後のNAC/NALの減少量をHPLCで定量することで評価する。通常、ADRAではNAC/NALの減少量のみに注目していることから、その減少が実際に被験物質との共有結合によるものか(真陽性か偽陽性か)を判別することができない。そこで、本研究においては、LC-MSを用いて反応生成物の分析を行うことで、ADRAにおける真/偽陽性の判別を試みた。
既知のADRA陽性化合物をNAC/NALと、NACを酸化させる偽陽性化合物をNACと反応させ、その反応液について高分解能LC-MSを用いて分析を行った。反応前後のクロマトグラムの差分解析により生成物を検索した。また、検出された生成物についてフラグメント解析を行った。
差分解析により、陽性化合物の反応液からは想定されるNAC/NAL付加体が、偽陽性化合物の反応液からは複数のNAC酸化物(NAC二量体、NAC-スルフィン酸及びNAC-スルフォン酸)が検出された。さらに、フラグメント解析の結果、NAC/NAL付加体は共通する特徴的なフラグメントパターンを示すことが確認された。
以上、高分解能LC-MSを用いて反応液を分析し、差分解析を行うことで反応生成物を検出でき、さらにフラグメント解析を組合せることでNAC/NAL付加体か否かを確認できることが示された。本分析法は、ADRAにおける真/偽陽性の判別に有用であると考えられた。