日本毒性学会学術年会
第48回日本毒性学会学術年会
セッションID: O-8
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口演
低濃度メチル水銀の妊娠期曝露はラット母体脳において神経軸索およびシナプスの再形成を引き起こす
*藤村 成剛臼杵 扶佐子
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抄録

メチル水銀の妊娠期曝露は、母体に影響をおよぼさない低濃度であっても胎児の脳神経系に対して毒性作用を示すことが知られている。しかしながら、母体の脳神経系に対する影響についてはこれまで詳細な検討は行われていなかった。そこで今回、妊娠ラットに0.2, 1, 5 ppmのメチル水銀含有水を飲水投与し、母体の脳神経系に対する影響について検討を行った結果、メチル水銀の妊娠期曝露は母体小脳において、胎児の脳神経系に影響をおよぼす5 ppmよりもさらに低濃度である1 ppmの飲水投与から神経軸索およびシナプス構成成分を減少させることが明らかになった。さらにそのメカニズムについて検討を行い、本抑制作用にはTrkA経路の抑制による神経軸索およびシナプス形成能の低下およびシナプス除去機構として知られている“シナプス刈り込み” が関与していることが示唆された。さらに、出産後、メチル水銀曝露を継続したにもかかわらず、出産3週間後から神経軸索とシナプスの再形成が認められ、出産6週間後にはその再形成が完了することが明らかになった。また、メチル水銀の妊娠期曝露は、周産期の血漿コルチコステロンの増加とエストラジオールの減少を引き起こした。以上の結果から、低濃度メチル水銀の妊娠期曝露は、血中ホルモンの変化を介したTrkA経路の抑制およびシナプス刈り込みによって母体脳に一時的な神経軸索およびシナプス形成成分の低下を引き起こすが、母体は出産後にTrkA経路を正常化させることによって神経軸索およびシナプスの再形成を行っていることが示唆された。本現象は、神経発達影響を受けた新生児の養育に対処するための母体の対処機構なのかもしれない。

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