日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: SL3
会議情報

特別講演
日韓毒性学会合同企画:メタボローム解析を利用したメチル水銀毒性軽減に関わる新規分子機構の解明
*黄 基旭
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

メチル水銀は重篤な中枢神経障害を引き起こす環境汚染物質である。しかし、メチル水銀による毒性発現機構およびそれに対する生体防御機構は未だ明らかになっていない。一方、生体内には、DNAやRNA、蛋白質といった高分子の他にも、比較的低分子であるアミノ酸や有機酸、脂肪酸といった物質も多く含まれている。生体全体の働きを理解するためには、これら低分子物質を解析することも必要である。そこで我々は、メチル水銀を投与したマウスの脳を用いてメタボローム解析を行い、量的変動が認められた低分子代謝物質とメチル水銀との関わりについて検討してきた。キャピラリー電気泳動・質量分析計を用いて解析を行ったところ、メチル水銀投与によってマウス脳内でプトレシンやハイポタウリン、尿酸などのレベルが上昇し、逆に、ホモバニリン酸やエチルグルタミン、メチルヒスチジンなどのレベルが低下していた。これらの代謝物質で前処理した細胞のメチル水銀感受性を検討したところ、プトレシンの添加がマウス神経由来C17.2細胞に比較的強いメチル水銀耐性を与えることを見出した。また、プトレシンのレベルもC17.2細胞においてメチル水銀処理によって顕著に増加した。プトレシンはornithine decarboxylase(ODC)によってオルニチンから生合成されるが、ODC阻害剤の培地への添加は細胞にメチル水銀高感受性を与え、ODCの高発現は細胞にメチル水銀耐性を与えた。また、メチル水銀処理によってODCのmRNAレベルはほとんど変動せず、その蛋白質レベルのみが上昇することも明らかとなった。これらのことは、生体がメチル水銀に暴露されると、ODC活性上昇を介してプトレシンのレベルを増加させることによってメチル水銀毒性を軽減している可能性を示唆している。本講演では、メタボローム解析から見えてきたメチル水銀毒性軽減に関わる新規分子機構について紹介する。

著者関連情報
© 2020 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top