日本毒性学会学術年会
第44回日本毒性学会学術年会
セッションID: S8-2
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シンポジウム8 メタルトキシコロジーを牽引する最先端分析法の現状と展望
NMRを用いた金属元素のスペシエーション分析
*鈴木 紀行小椋 康光
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抄録

 近年、金属元素を分析するための様々な技術が開発されてきた。特にスペシエーションと呼ばれる微量元素の化学形態別分析によって、生体内で生合成されるユニークな化合物の構造を明らかにすることができるようになり、複雑な代謝過程が明らかとなりつつある。NMRは通常1Hや13Cが主な測定対象であり、有機化合物やタンパク質の構造解析に汎用されている。しかしながら、セリウムを除く全ての金属元素に磁気モーメントを有する安定同位体が存在するため、NMRは原理的には有機金属化合物や金属タンパク質、金属酵素に含まれる金属元素を直接観測するための有効な手段となりうる。
 セレンは動物にとっては必須元素であり、生体内で化学形態を変えながら代謝されていくという典型元素としての特性と、容易に酸化・還元されるという金属元素としての特性から、極めて特異な生理的機能を発揮しているが、このセレンも77Seが1/2の核スピンを有するためNMRによる測定が可能である。セレンの特筆すべき特徴としてあげられるのが、他の金属元素とは異なり、21番目のアミノ酸であるセレノシステインとして、グルタチオンペルオキシダーゼやチオレドキシンレダクターゼなど25種類のセレンタンパク質の一次構造に組み込まれていることである。食物から摂取されたセレンがセレンタンパク質に取り込まれ、また排泄される過程には様々な化学形態のセレン化合物が関与するため、それらの包括的な分析が可能なNMRは有用と言える。筆者らのグループは、多くのセレン化合物やその標識化合物を合成し、メタロメタボローム研究を展開することで、生体内のセレンの動きを定量的に解析してきた。この技術とNMRによるバイオセレンの分析を組み合わせることにより、今までは直接観測することが困難であった化学種についても詳細に分析することが可能となる。本発表では、これらの最近の知見について紹介する。

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