日本毒性学会学術年会
第41回日本毒性学会学術年会
セッションID: S4-2
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シンポジウム 4 ヒト iPS 細胞由来分化細胞を用いた医薬品安全性評価の課題と現状
ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いた新規心毒性評価系
*黒川 洵子古川 哲史関野 祐子諫田 泰成
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抄録

 ヒトiPS由来心筋細胞は,再生医療のみならず創薬における心機能評価系としての応用が期待されている.しかし,創薬応用するにはいまだ重大な問題点が少なくとも2つある.一つ目は,活動電位波形が未熟型で自動能を持つ細胞が多く混入し均一でないこと,二つ目は,成人心室筋と比較して心収縮力が非常に小さいことである.実際, HERG阻害剤による活動電位幅(APD)延長をパッチクランプ実験で計測することはできず,心室筋再分極への影響を正確に解析出来ない.従って,薬剤評価に利用するためには更なる改良が必要である.
 本シンポジウムでは,活動電位と収縮力における問題点の解決に向けた我々のアプローチを紹介する.まず,活動電位の未熟性の問題点に関して,成人心室筋と比較し機能が低い因子XをヒトiPS心筋に導入することにより,人工的な機能成熟化を目指した.因子Xの導入により,プラトー相がある心室筋様活動電位が得られ,APDが安定的に計測できるようになった.さらに,HERG阻害剤による濃度依存的なAPD延長も計測できるようになり,薬剤評価における改善が見られた.次に,収縮力改善の方法を探索するために,ヒトiPS心筋細胞に対する機械的力の影響を検討した.心筋シートの収縮力測定には,高速ビデオイメージの動きベクトル解析という非侵襲的な方法を用いた.動きベクトル解析では長期間安定的な収縮力計測を可能とするので,特に心不全治療薬の薬効評価において有利であると思われる.我々は,段階的に異なる基質硬度のディッシュで培養したヒトiPS心筋シートを比較検討したところ,筋肉細胞に近い硬度のディッシュで収縮力が最大になった.この結果は,適正な機械的力によるシグナルが心筋収縮力の成熟化機構に関与していることを示唆する.
 以上の結果が,iPS細胞を用いた心機能評価における技術革新に貢献することを期待する.

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© 2014 日本毒性学会
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