日本トキシコロジー学会学術年会
第34回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: WS2-6
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毒性標的としての生殖細胞―遺伝毒性から生殖毒性へのブリッジング―
生殖細胞の傷害による次世代先天異常
*長尾 哲二
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抄録

マウス親世代の生殖細胞を放射線を含む変異原で処理すると、次世代(F1)で奇形胎児の出現頻度が上昇する(野村、1976)。この現象に関して、我々は現在までに次の5点を明らかにした。1.次世代奇形は、通常の継世代遺伝性突然変異と同様に、始原生殖細胞から成熟精子までの雄性生殖細胞系列のいずれの段階を処理しても誘発される。2.その誘発の原因となる生殖細胞の遺伝的変化は、特定座位で生じる遺伝子突然変異と同質のものである。3.但し、F1奇形の誘発頻度は、遺伝子突然変異の誘発頻度よりも桁違いに高い。4.誘発される次世代奇形のタイプは、化学変異原の種類、処理した生殖細胞の発生段階に関わらず、マウス系統に特異的な自然発生性の奇形のタイプとほぼ一致する。5.親世代生殖細胞の変異原処理は、次世代で自然発生奇形の出現頻度を上昇させると同時に、器官形成期胚の薬物処理による誘発奇形の頻度も著しく増加させる。 近年、我々は合成ホルモンの継世代影響の証拠を得た。すなわち胎生期に合成エストロゲン処理を受けたため、精巣の部分的雌化や精細管萎縮などを被った雄マウスの次世代で奇形胎児が対照レベル以上の頻度で出現し、また奇形誘発には明瞭な閾値効果が認められたことを報告した。この継世代催奇形効果を精巣毒性の二次的効果、すなわち傷害を被った精巣では、生殖細胞に生じた突然変異に対する修復機構が充分に機能しないのではないかと考えているが、胎生期に合成エストロゲン処理されると、胎児生殖細胞のDNAメチル化酵素の発現が低下したことから、この継世代催奇形効果の機構のひとつとしてエピジェネティックな影響も考えられる。

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© 2007 日本毒性学会
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