日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 424
会議情報

特定の大企業に依存する地域の変化
*外枦保 大介
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録


1.はじめに
 東京都大田区や大阪府東大阪市など中小企業がフレキシブルな取引関係を構築する「都市型産業集積」や,地場産業が卓越し地方圏に顕著に見られる「産地」のように,多数の中小企業が集積し形成されている産業集積が存在する一方で,特定の大企業に依存する地域もある.その代表例は,企業城下町である.
 特定の大企業に依存する地域を個別に分析した研究は,数多く蓄積されているが,全国的な分析を行った研究は少ない.本発表では,いくつかの時期において,全国の市区町村から特定の大企業に依存する地域を抽出し,その変化を検証することにした.なお,本発表で対象とする大企業は,製造業に限る.

2.方法
 特定の大企業に依存する地域を統計的に把握することは非常に困難である.そのため,ここでは,全国的な分析が可能な中核企業の従業者数に注目した.「中核企業の事業所従業者数が1,000人以上」かつ「当該市区町村の総従業者数に占める割合が1割以上」という2つの条件に従って抽出を試みた.
 また,今回の分析では,過去から現在にかけて特定の大企業に依存する地域がどのように変化してきたかをみるために,1960年,1981年,2001年の3時点において抽出を試みた.この3時点を設定した理由としては,既存研究を踏まえると,戦時中までに産業集積が形成されていた地域と,戦後新たに産業集積の形成が見られた地域とは明確に異なり,また,産業構造の転換点となった石油危機は,産業集積に大きな変化をもたらしているものと考えられるためである.
 中核企業の従業者数のデータソースとして,日本経済新聞社『会社年鑑』を用いた.『会社年鑑』は,有価証券報告書のデータを元に,日本国内の証券取引所に上場されているすべての企業の事業内容,業績,売上構成等,企業の動向を把握する一通りの情報が掲載されている.そのうち,「設備の状況」には,企業が保有する各設備(工場)の従業者数,土地面積・簿価,機械装置の金額,投下資本額が記載されている.このデータを用いれば,過去の状況を把握することが可能であるし,全国の動向を把握することができる.なお,企業,または年によって,「設備の状況」は,工場単位あるいは地域(市区町村)単位等表記にばらつきがあるので,単一の工場で1,000人の従業者がいなくても,同一市区町村内で複数の工場がありそれらの工場の総従業者数が1,000人を超えている場合も分析の対象に加えた.『会社年鑑』に記載されている日本の上場企業(工業)約800~1,500社 の中で,従業者1,000人以上の工場をリストアップしたところ,各年500~600前後の大規模工場が抽出された.

3.結果と考察
 1960年と1981年を比較すると,減少が目立つ業種は「繊維」である.また,同様に,化学工業も3分の1にまで減少している.一方で,電気機器,輸送用機械は増加している.都道府県別にみると,大阪府の減少が目立つ.1960年から1981年にかけて,増加した地域は,北関東および愛知県である.前者は,自動車・電気機器の工場が進出・増強され,後者は,輸送用機械,特に自動車メーカーおよび関連企業の立地が見られた.
 1981年と2001年を比較すると,鉄鋼や化学,ゴム製品といった装置型・素材産業は減少している.造船は完全に消滅し,輸送用機械全体も減少している.都道府県別に見ると,愛知県をはじめとする東海地方が最も多く,ついで北関東(茨城県,栃木県)が続く.電気機器メーカーの進出・増強によって,奈良県に新たな特定の大企業に依存する地域が抽出されるようになった.
 1960年,1981年,2001年の3時点の変化をみると,特定の大企業に依存する地域の性格が大きく変化していることが確認できる.1960年には,核となる大企業とその下請仕事に従事する多数の中小企業によって成り立つ「企業城下町」が多く含まれていたが,1981年,2001年と時を経るに従って,コンビナートや分工場経済の地域が多数見られるようになっている.

著者関連情報
© 2007 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top