日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0202
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発表要旨
世界遺産と生物圏保存地域との連携の可能性
*吉田 正人
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抄録

世界には、世界遺産と生物圏保存地域が重なっている地域が、69箇所(隣接するものを含めると74箇所)る。2016年に世界遺産に新規登録された中国湖北省の神農架(1990年に生物圏保存地域登録)など、世界遺産と生物圏保存地域が重複した地域数は毎年増えつつある。日本では1980年に屋久島、大台ケ原・大峰山、志賀高原、白山の4箇所が生物圏保存地域に指定された後、しばらく動きがなかったが、2012年に宮崎県の綾、2014年に只見、南アルプスの新規登録と志賀高原の拡張登録、2016年には屋久島・口永良部島、白山、大台ケ原・大峯山・大杉谷が拡張登録・名称変更されることによって、世界遺産と重複する地域が増えてきた。生物圏保存地域が、世界遺産と異なる点は、優れた自然や文化遺産の保護のみならず、周辺地域における人と自然との共生、すなわち持続可能な開発のモデルを示すことを目的としている点である。また、世界遺産が登録資産(Property)と緩衝地帯(Buffer Zone)からなるのに対して、生物圏保存地域はその外側に移行地域(Transition Area)を持つことも大きな違いであり、生物圏保存地域を世界遺産に重ねて登録することで、世界遺産の周辺地域を生物圏保存地域の移行地域とし、人と自然との共生を図ることができる。文化的景観(Cultural Landscape)や聖なる地(Sacred site)のような、人と自然との関係を表現した文化遺産も、周辺の自然と一体のものとして保存することが必要である。しかし、世界遺産条約の作業指針には、登録資産とその周辺の緩衝地帯までしか規定がなく、さらに広域を対象とした計画を作ろうとするならば、生物圏保存地域はその選択肢の一つとなりうる。

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