日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
セッションID: P3-137
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レジャー活動と自然再生が釧路湿原の水鳥の生息環境に与える影響
*浦 巧
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抄録

釧路湿原およびその周辺ではタンチョウ(Grus japonensis)をはじめとする鳥類が、少なくとも97種繁殖していると考えられ、1000頭のエゾシカ、キタキツネ、エゾリス、エゾシマリス、エゾユキウサギ、エゾモモンガなど多くの鳥獣類が生息している。現在、釧路湿原ではレジャー活動として、釣り、釣舟による釣り、カヌー、ラフティングボート、ウインドサーフィン、歩くスキー、スノーモービル、山菜採り、写真愛好家による撮影、狩猟、四輪駆動車・モトクロスバイク等の乗り入れなどが、釧路湿原東縁部に位置する釧路川、塘路湖、シラルトロ湖、達古武湖およびキラコタン岬、宮島岬などを中心として釧路湿原全域に広がっており、湿原内のラムサール条約登録湿地、特別保護区、天然記念物指定地域内でも頻繁におこなわれている。
 このようなレジャー活動は釧路湿原内での水鳥の営巣・渡り・越冬に大きな影響を与えている。春から夏にかけての繁殖期には、マガモ(Anas platyrhynchos)やヨシガモ(Anas falcate)など、水鳥の雄の動態に影響を与え、営巣地の移動・放棄および破壊をもたらすこともある。また、春と秋の渡りでは、オオハクチョウ(Cygnus cygnus)やヒシクイ(Anser fabalis)など多くの水鳥を飛び立たたせ、渡りの中継地としての機能を著しく低下させている。冬期においては国立公園内から多くの水鳥を移動させ、国立公園外で越冬する水鳥の個体数の増加が著しい状態にある。この傾向は、冬季のラフティングツアーおよび釣り人の増加により、まずます加速されつつある。
 また、釧路川蛇行再生事業に関しては、代替地を作らずに復元工事をすることで、旧河道で繁殖している水鳥を含めた独自の生態系を破壊する可能性とともに、カヌーポートの設置等、新たな観光開発がなされるのではないかと危惧されるところである。
 一方、釧路川右岸築堤にヤチハンノキの広がりを防ぐ実験のため人工的に形成された沼では、わずか2年で多くの水鳥が繁殖するようになり、自然再生の可能性を示唆するものとして注目されたが、実験終了により現在は存在していない。

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© 2004 日本生態学会
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