日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
セッションID: S3-6
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エゾシカの爆発的増加:natural regulationかcontrolか
*梶 光一
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抄録

世界で一番早く設定された国立公園であるイエローストーンでは,過去40年間以上にわたりエルクなどの有蹄類個体群に対し人為的な間引きを実施せずに,自然調節にまかせる(何もしない)という管理を行なってきた.その管理方針が適正であるか否かついて,主にエルクの増えすぎによる植生への悪影響をめぐって激しい論争が起こり,論争は現在でも継続している.
世界自然遺産の候補地となった知床国立公園でも近年になって,高密度となったエゾシカによる自然植生への悪影響が問題とされるようになり,エゾシカ管理のあり方が問われている.エゾシカの爆発的増加が人為的な影響によるものか,あるいは自然現象によるものかによって,とりわけ国立公園内ではエゾシカの管理方針が異なったものとなるだろう.1980年代に,洞爺湖中島,知床半島,釧路支庁音別町等で,エゾシカの長期モニタリングが開始された.それぞれ,人為的に持ち込まれた閉鎖個体群,自然に再分布した半閉鎖個体群,牧草地帯に定着した開放個体群であり,天然林,原生林,牧草地と空間スケールも生息環境にも大きな相違がある.しかし,いずれの個体群でも年率16_から_21%の爆発的な増加が生じた.これらの調査地域では,低密度から出発し環境収容力と十分な開きがあったこと,保護下あるいは捕獲があってもわずかであった点で共通している.これらの事例は,エゾシカの高い内的自然増加率を示している.エゾシカは北海道開拓以来130年にわたって,乱獲と豪雪による激減と保護による激増を繰り返してきた.このような個体群の縮小と拡大は人為的な攪乱がなくても,歴史的に繰り返されてきた可能性も考えられる.知床国立公園におけるエゾシカの個体群管理は,対象地域に何の価値を求めるのか,あるいはどれくらいの時間スケールを考えるのかによって管理方針,すなわち natural regulation かcontrolかの対応が分けられるだろう.

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© 2004 日本生態学会
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