育種学研究
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原著論文
穂発芽耐性を強化した水稲品種コシヒカリの準同質遺伝子系統の育成と高温登熟耐性の評価
小林 麻子杉本 和彦林 猛近藤 始彦園田 純也塚口 直史和田 卓也山‍内‍ 歌‍子‍岩澤 紀生矢野 昌裕冨田 桂
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2016 年 18 巻 1 号 p. 1-10

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抄録

水稲品種コシヒカリの遺伝的背景にインド型品種Kasalathに由来する穂発芽耐性遺伝子(種子休眠関連遺伝子)Sdr4を含むゲノム領域を置換した準同質遺伝子系統コシヒカリNIL [Sdr4] を育成した.コシヒカリNIL [Sdr4] について,生産力検定試験を行った結果,草型,出穂期,収量,食味等の主要農業形質は反復親であるコシヒカリとほぼ同等であった.コシヒカリNIL [Sdr4] の穂発芽性はコシヒカリより“難”であり,Sdr4の作用はコシヒカリの遺伝背景でも十分発揮されることを確認した.さらにコシヒカリNIL [Sdr4] の高温登熟耐性を評価したところ,コシヒカリNIL [Sdr4] の背白及び基白発生率はコシヒカリより有意に低く,高温登熟耐性を有することが明らかとなった.開花後14日目の穀粒におけるαアミラーゼ遺伝子Amy1A及びAmy1Cの発現レベルはコシヒカリより有意に低かった.しかし,このαアミラーゼ遺伝子の発現抑制と背白及び基白発生率の減少との関係は本研究では不明であった.コシヒカリNIL [Sdr4] の種子休眠性はコシヒカリより強いが貯蔵後種子の発芽率は十分高く,翌春の育苗には支障が無いことを確認した.以上の結果から,コシヒカリNIL [Sdr4] は新たな品種候補となり得るばかりでなく,穂発芽耐性や高温登熟耐性の改変のために有効な育種母本としても利用できる.

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© 2016 日本育種学会
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