1988 年 91 巻 4 号 p. 255-266
エイコサペンタエン酸エチルエステル(EPA-E)の3および30mg/kg/日の高コレステロール食(HCD)飼育した家兎における血管病変および血液成分の変化に対する作用を検討し,一部,チクロピジン30mg/kg/日投与による作用と比較した.HCD飼育による胸部大動脈伸展性の低下は,EPA-E30mg/kg投与により有意に改善された.チクロピジン30mg/kg投与によっても軽度ながら改善作用が認められた.大動脈粥状硬化面積に対してはEPA-Eおよびチクロピジンの作用は明らかではなかった.胸部大動脈の乾燥組織重量,エラスチン量ならびにコラーゲン量にEPA-Eの影響は認められなかったが,チクロピジンと異なり,EPA-E30mg/kg/日投与により血管壁コレステロール(Ch)量の低下傾向が認められ,更に,エラスチン画分中のCh量も低下傾向が認められた.EPA-Eおよびチクロピジンは頸動脈PGI2様活性産生能の亢進に対しては一定の作用傾向を示さなかった.胸部大動脈の弾性線維,膠原線維,酸性ムコ多糖およびカルシウム沈着のいずれについても対照群とEPA-E投与群との差は認められなかった.一方,EPA-Eの血漿総Ch,HDL-Chおよびトリグリセリド(TG)への影響は明らかではなかったが,HCD飼育による血小板のアラキドン酸(AA)凝集能およびTXA2様活性産生能の亢進に対し,EPA-E 30mg/kg/日投与によりわずかながら抑制傾向が認められた.更に,血中および血小板中EPA量はEPA-E 30mg/kg/日投与により著明に上昇したが,ドコサヘキサエン酸(DHA)およびAA量には変化がなかった.以上のように,EPA-EをHCD飼育家兎に連日経口投与することにより,血漿および血小板中EPA量の明らかな増大と血管弾性低下の著明な改善が認められ,このEPA-Eの作用機序は明らかではないが,一部はChへの血管壁の蓄積をはじめとするエラスチンに富む弾性線維の生化学的な変化に対する抑制作用が想定された.