2023 年 158 巻 2 号 p. 182-186
動物実験は生命科学・医学研究の発展に貢献してきた.現在,ヒトの疾患を模した病態モデルを作製するため,マウスやラット,サルをはじめとした実験動物が用いられ,これらの動物の生体情報や情動,認知機能は,パターン化された行動試験によって評価されている.動物と言葉を介したコミュニケーションが取れない我々人間は,動物の行動変化が本当に人の症状に外挿できるものであるのか,実験系に客観性と再現性があるのかを,常に検討して評価方法を見直していく必要がある.加えて,動物福祉や持続可能な開発目標(SDGs)に則し,動物の使用数や苦痛を軽減した代替実験法を模索していく必要もある.近年,撮影機器や情報処理技術が急速に向上し,動物を長時間撮影して高度な解析を行うことが可能になった.また,人工知能(AI)の発展は目覚ましく,ヒトを超える推論精度を達成したり,ヒトが気付かない解釈を見出したりする事例も報告されてきた.生命科学・医学研究にイノベーションを起こすには,画像やそれを解析するAIをうまく活用しながら,実験動物の生体情報や情動,認知機能をなるべく自然な飼育環境下でデジタル化し,広く・深く,評価していく必要がある.我々はこれまで,“非侵襲”,“無拘束”,“自然な飼育環境下での評価”をキーワードに据え,画像解析技術とAI,数理解析を応用しながら「動物の心を読む」ことを目標に,基盤技術を開発してきた.本稿では,我々の開発した「マウスの24時間の自発運動量測定法」と「ひっかき行動の自動検出法」の技術を紹介するとともに,今後の展望についても概説したい.