日本薬理学雑誌
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実験技術
脊髄穿刺モデルを用いた心血管反応と薬効評価
座間味 義人高取 真吾川崎 博己
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2009 年 133 巻 1 号 p. 22-26

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抄録

脊髄穿刺モデルは,循環反射の関与を除外した状態で各種血管作動性物質による心血管反応をin vivo系で観察することができるだけでなく,穿刺ロッドを介した電気刺激により各種神経性の心血管反応とこれに対する薬効評価も観察できるため,末梢における心血管反応の評価に有用である.モデル作製では,ラットを用い,ペントバルビタール麻酔下に眼窩より脊柱内にロッドを挿入し,仙髄までの脊髄を破壊し,人工呼吸下に,頚動脈に挿入したカニューレを介して全身血圧および心拍数を測定記録した.血圧および心拍数が安定した後,穿刺ロッドを介して胸髄上部を電気刺激すると心拍数の増加を伴った刺激頻度依存性の血圧上昇反応,胸髄下部刺激では心拍数の増加を伴わない刺激頻度依存性の血圧上昇反応が観察される.この昇圧反応は,遠心性交感神経による血管収縮反応である.メトキサミンで平均血圧を人工的に約100 mmHgに上昇維持し,ヘキサメソニウムで自律神経を遮断した条件で,電気刺激を行うと,心拍数の増加を伴わない刺激頻度依存性の血圧下降反応が観察される.この降圧反応は,CGRP作動性神経による血管拡張反応である.脊髄穿刺SHRでは,CGRP神経性血管反応の減弱が観察されるが,これがSHRの交感神経性血管反応の増大を招き,高血圧の進展・維持に関与している可能性を示唆する.脊髄穿刺インスリン抵抗性ラットでは慢性的な高インスリン血症状態が交感神経性血管反応の増大とCGRP神経性血管反応の減弱が生じていることから,これら神経の機能的な変化が高血圧症状を誘導すると考えられる.一方,脊髄穿刺ラットの実験で,nNOS神経が交感神経からのノルアドレナリン遊離を抑制することで,過度の血管収縮を抑制し血管の緊張度を調節していることも示唆できる.これらの研究から,脊髄穿刺モデルはin vivo系における神経性心血管反応とこの反応に対する薬効評価ができる有用なモデルであると考えられる.

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