日本薬理学雑誌
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特集:パスウェイ解析からネットワーク解析へ
インスリン抵抗性による血管障害の細胞内情報伝達機構
吉栖 正典石澤 啓介井澤 有紀玉置 俊晃
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2006 年 128 巻 3 号 p. 147-151

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抄録

近年,メタボリック症候群の疾患概念が確立され,本邦でもその診断基準が発表された.メタボリック症候群の根底にはインスリン抵抗性が存在するといわれるが,高血圧,動脈硬化などの血管病にインスリン抵抗性がどのように関っているかは未だ明らかではない.我々はこの数年,血管病の発症,進展に関わるインスリン抵抗性の細胞内情報伝達機構について研究を行なってきた.糖尿病モデル動物のOLETFラットを用いた検討では,アンジオテンシンII受容体拮抗薬の投与が末梢での糖利用臓器のインスリン抵抗性を改善させ,レニン-アンジオテンシン系のメタボリック症候群への関与が示唆された.培養血管平滑筋細胞を用いた細胞内情報伝達機構の検討では,アンジオテンシンII刺激によって活性化されるMAPキナーゼの一つ,ERK1/2がインスリン抵抗性の発現に関与していることが明らかになった.また,血管リモデリング進展過程のひとつである血管平滑筋細胞の遊走において,SrcチロシンキナーゼやCasアダプタータンパクが細胞内分子として重要な役割を果たしていることを見いだした.血管病におけるインスリン抵抗性に関わる標的分子の探求は,今後も増加することが予想されるメタボリックシンドローム治療のための創薬に有用な情報をもたらすことが期待される.

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© 2006 公益社団法人 日本薬理学会
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