日本薬理学雑誌
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プロテアーゼ受容体(PAR)の生理的役割:特に消化器系機能への関与について
川畑 篤史黒田 良太郎Morley D. Hollenberg
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1999 年 114 巻 supplement 号 p. 173-179

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抄録

G蛋白共役型受容体の一種であるプロテアーゼ受容体(Protease-activated receptor; PAR)は、細胞膜上に存在しプロテアーゼの細胞外からの作用を仲介している。プロテアーゼは、PAR受容体分子の細胞外N末側ペプチド鎖を特定部位で切断することによって新たなN末を露出させ、これがtethered ligandとなって同じ受容体分子の別の部位に結合することによって受容体の活性化がおこる。現在までにクローニングされている4つのPARsのうち、PAR-1,-3,-4はトロンビンによって活性化され、またPAR-2はトリプシンおよび肥満細胞に存在するトリプターゼによって活性化される。ヒトではPAR-1とPAR-4が、またマウスやラットではPAR-3とPAR-4が血小板の膜上に存在し、トロンビンの血小板活性化作用を媒介している。しかし、血小板以外の種々の臓器・細胞にもこれら3つのトロンビン受容体が広く存在しており、様々な生理機能に関与する可能性が示唆されている。また、PAR-2も生体内に広く分布しており、その生理的役割が次第に明らかにされつつある。我々は、ヒト胎児腎(HEK)細胞におけるカルシウムシグナルを指標とした受容体脱感作実験などにより、PAR-1,PAR-2のアゴニストペプチドの検索および特異性についての評価を行い、各PARに特異的なアゴニストを見いだした。そこで、消化器系機能へのPARsの関与を特異的アゴニストを用いて検討し、次のような結果を得た: 1) 唾液腺中にPAR-2 mRNAが存在し、PAR-2刺激によって唾液分泌がおこる; 2) in vivoでのPAR-2活性化により膵液分泌が促進される; 3) PAR-1およびPAR-2刺激は十二指腸の運動性を変化させる。このようにPARは生体内において種々の生理的あるいは病態生理学的役割を担っていることが示唆されており、創薬のための新たなターゲットとなりうると思われる。

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