日本薬理学雑誌
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受賞講演総説
新たな即効性抗うつ薬候補としてのレゾルビン類
出山 諭司
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2020 年 155 巻 6 号 p. 381-385

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抄録

モノアミン再取り込み阻害作用を有する既存の抗うつ薬は,遅効性で治療効果が不十分であることが問題となっている.近年,NMDA受容体拮抗薬のケタミンが,治療抵抗性うつ病患者にも即効性かつ持続性の抗うつ作用を示すことが明らかになり,その抗うつ作用は過去60年にわたるうつ病研究のなかで最も画期的な発見として大きな注目を集めている.ケタミンには,薬物依存の懸念や幻覚・妄想などの副作用があるため,抗うつ薬としての使用には制約があるが,ケタミンのユニークな抗うつ作用を担う分子神経機構の解明は,より安全性の高い即効性抗うつ薬の開発に極めて重要である.ケタミンの抗うつ作用には,内側前頭前野や海馬における脳由来神経栄養因子(BDNF)や血管内皮増殖因子(VEGF)の遊離・発現増加と,その下流のmechanistic target of rapamycin complex 1(mTORC1)活性化が重要であると考えられている.我々は,mTORC1活性化作用を有する化合物のなかから抗うつ作用を示す化合物の探索を行い,ドコサヘキサエン酸やエイコサペンタエン酸の活性代謝物であるレゾルビン類(RvD1,RvD2,RvE1,RvE2,RvE3)が抗うつ作用を示すことを見出した.また,RvD1,RvD2およびRvE1の抗うつ作用にはmTORC1活性化が重要であることを明らかにした.レゾルビン類は生体の恒常性維持に寄与する内因性脂質メディエーターであることから,安全性面でケタミンよりも優れた新たな即効性抗うつ薬の創薬標的になると期待される.

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