日本薬理学雑誌
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総説特集号「薬理学のQOLへの貢献」
痛みとQOL
−モルヒネ鎮痛耐性とモルヒネ抵抗性神経因性疼痛
植田 弘師
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2003 年 122 巻 3 号 p. 192-200

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抄録

痛みは本来,生体に対する警告系としての機能を果たしているが,過剰で持続的な痛みは除去する必要がある.がん性疼痛を含む様々な慢性疼痛はそのものが疾患であるという意識を持ち,痛みを我慢せず適切な痛み治療を受けることがQOLの高い人生を全うする上で重要である.痛みは,その原因から侵害性,炎症性,神経因性と心因性の4つに分類される.典型的な慢性の痛みは中でも神経そのものの傷害を伴う神経因性疼痛を指すことが多いが,刺激が侵害性であっても原因が慢性化する場合には同様に治療を受け完全に痛みを除去すべきである.痛みは新たな痛みを生み出す悪循環の性質を持ちうるからである.がん性疼痛では腫瘍組織の肥厚などにより機械的侵害性刺激を受けるが,この痛みはモルヒネで完全に抑制される.炎症性疼痛では抗炎症薬により原因が抑制除去されれば,痛みは取れる.しかし,神経因性疼痛では神経そのものが傷害を受け,その変化が慢性化し,しかも新たな神経回路上の可塑的変化を誘導するため,原因はおろか症状を緩解することにも困難を伴う.がん性疼痛におけるモルヒネ鎮痛は有効な治療方法であるが,長期療養の場合には増量を必要とし,しかも痛みそのものの性質が神経因性疼痛へと変化することもあるので,QOLを考慮する上で多くの課題を有している.また帯状疱疹後疼痛に見られるように神経炎症が治まった後に神経因性疼痛に変化することが高頻度に観察されるので,慢性化する炎症も深刻なQOLの課題を有していると考えられる.本稿では未だ十分に解決されていないがん性疼痛におけるモルヒネ鎮痛の問題点と神経因性疼痛のしくみについて最近の研究動向を述べると共に,今後QOL向上に求められる薬理学的課題について議論してゆきたい.

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© 2003 公益社団法人 日本薬理学会
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