外科と代謝・栄養
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特別講演2
SL-2 iPS細胞が拓いた医学の展開
青井 貴之
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2019 年 53 巻 3 号 p. 48

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抄録

 人工多能性幹(induced Pluripotent Stem, iPS)細胞は、体細胞に少数の因子を導入し、特定の環境下で培養することで得られる多能性幹細胞株である。iPS細胞は、①生体を構成する様々な細胞に分化することができる能力(分化多能性)と、② ①の性質を保ちながら無限に増殖することができる能力(自己複製能)を有している。加えて、③iPS細胞は様々な患者あるいは健常者など、個性が判明している個人からの樹立が可能であり、④ある個体を構成する様々な特定の細胞から樹立する事が可能である。これらのことから、iPS細胞は創薬や病態研究、そして、細胞移植医療への応用が進められている。iPS細胞の真の実用化のためには、研究機関において行われる実験等のみならず、予算措置や規制改革、倫理的問題への対応、強力なチーム作りなどが必要であるが、この全てにわたって我が国では総合的施策がなされており、着実な成果を挙げている。実際、いくつもの有望なプロジェクトが具体的タイムテーブルの上で進行している。
また、iPS細胞の発明は、iPS細胞そのものを用いる研究だけではなく、iPS細胞の科学的意義やコンセプトに着想を得た多様な研究の展開を生んだ。特定の因子の導入により多能性幹細胞以外の細胞への運命転換を誘導する技術はダイレクト・リプログラミングとよばれ、iPS細胞の誕生以後、様々な細胞を作り出すための様々な因子の組み合わせが同定された。また、特定の因子の導入による脱分化と言う観点から、我々は人工的に癌幹細胞様の性質を有する細胞を作製することにとりくみ、大腸癌と肺癌において成功した。この技術を用いた研究から、大腸癌においてはバルプロ酸が、肺癌においては抗IL6 受容体抗体が、それぞれ癌幹細胞標的治療薬となり得る可能性が示唆された。

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© 2019 日本外科代謝栄養学会
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