日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P4009
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樹病
線虫が関与する数種広葉樹の葉ぶくれ症
*秋本 正信
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キーワード: 線虫, 広葉樹, 葉ぶくれ, 変色
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抄録

1.はじめに 1988年、北海道北部の中川町で葉ぶくれ症状を示すケヤマハンノキを発見し、その原因解明の過程で葉の病変部に線虫が生息することを知った。2002年には、函館市で局部黄変症状を示すブナの病葉から線虫が分離された。その後、葉ぶくれ、変色などの症状を示すその他数種の広葉樹の葉から相次いで線虫が分離された。イチゴ、キクなど多くの草本植物が線虫の寄生によって葉に病変を生じることは、「葉枯線虫病」としてよく知られている。一方、樹木では、葉の病変と線虫との関係についての記録は見当たらず、今回の発見は新知見と考えられる。ここでは、予備的な試験・観察結果について報告する。2.方法                  線虫の存否の確認:地上高1_から_2mの位置から採取した病葉の徒手切片を作成し、顕微鏡で葉組織内の線虫の存否を調べた。同時に、病葉片を時計皿の水に浮かべ、線虫遊出の有無を実体顕微鏡で調べた。 病葉の組織学的観察:病変部と健全部の境界部分を含む病葉横断面の氷結ミクロトーム切片を作成し、葉組織の変化と組織内の線虫を観察した。 線虫の分離・同定と増殖:病葉片から時計皿の水中に遊出した線虫を一頭ずつ毛筆の毛先ですくい上げ、形態観察のためのプレパラート作成、増殖試験に用いた。線虫増殖試験ではBotrytis菌培養シャーレに殺菌水を滴下し、水滴中に200頭の生線虫を接種して20℃に保持した。 なお、組織学的観察、線虫の分離、増殖試験はブナ、ミヤマハンノキ、アサダについてのみ行った。3.結果 (1)線虫が分離された樹種と病徴  これまでに線虫が分離された樹種はカバノキ科のケヤマハンノキ(植栽木)、ミヤマハンノキ(天然木)、アサダ(天然木)およびブナ科ブナ属のブナ(植栽、天然木)、ムラサキブナ(植栽木)、セイヨウブナ(植栽木)の計6種である。これらのうち、ブナは函館市、松前町などブナが自生する渡島半島各地で発見された。一方、ミヤマハンノキとアサダは函館市近郊の七飯町、ムラサキブナは函館市、セイヨウブナは札幌市、ケヤマハンノキは中川町の各1カ所だけで発見されている。 病徴の経過観察は不十分であるが、各樹種共通の病徴は、葉の部分的な肥厚と肥厚部の退色_から_黄変である。ケヤマハンノキ以外の樹種では、病変部はしばしば側脈に区切られ、細長い形で側脈間に生じることが多い。特に、ブナ、セイヨウブナは側脈に区切られた病変部の鮮やかな黄変が特徴的である。一方、ケヤマハンノキでは葉脈に区切られることなく小さな葉ぶくれが多数生じ、葉ぶくれ部分に対応する葉裏の葉脈が肥大する点で他の樹種と異なった。 なお、肉眼的には病変部に昆虫の食痕などの傷害は認められなかった。   (2)病葉の組織学的観察  葉の病変部断面の健全部に対する厚さの比はミヤマハンノキで約4.6、アサダで約3.3、ブナで約3.1であり、ミヤマハンノキは他樹種より葉の肥厚程度が大きかった(写真-1)。病変部の肥厚は、各葉組織の細胞の肥大と海綿状組織の細胞間隙の増加によるものであり、細胞数の増加によるものではなかった。また、葉の肥厚部には多数の線虫が認められた(写真-2)が、健全部には線虫はまったく認められなかった。 (3)線虫の同定と増殖  形態観察の結果、ブナ、ミヤマハンノキ、アサダから分離された線虫はTylenchida目の同一種であることが判明した(元森林総合研究所真宮靖治博士による同定)が、標本数、標本状態が不十分だったこともあり、目レベルの同定にとどまった。また、線虫は培養2ヶ月後にも増殖はみられなかった。

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© 2004 日本林学会
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