日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: L03
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T15 環境林・防災林の取り扱い方
海岸砂丘地への広葉樹植栽における土壌混入および剪定の効果
*金子 智紀田村 浩喜
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抄録

1.はじめに
砂丘植栽された広葉樹の成長阻害要因として乾燥害がある。造成初期の高温少雨期に,主軸や展開した枝葉が萎凋して枯れ下がり,甚だしい場合は枯死に至る。このため日本海沿岸地方においては,潮風害とともに広葉樹林造成上の課題となっている。一般に乾燥害の被害回避策としては,マルチングや灌水,剪定などが有効とされているが(1),砂丘植栽での仕様や効果は明らかにされていない。そこで,本稿では乾燥害の軽減を目的に,植栽時に土壌混入による客土や剪定処理を行い,一成長期経過後の生育成績からその効果を検討した。
2.方法
試験地は秋田市向浜で,汀線からの距離150m,前砂丘の海側に位置する。樹種は選定試験で生存率の高かったケヤキ,エゾイタヤ,カシワ,シナノキの4種を選んだ(2)。各樹種3本1株の巣植えとし(1処理区当たり50株150本),クロマツとの列状混交で植栽した。試験処理はクロマツ植栽基準を共通仕様としたうえで,広葉樹については土壌混入区(1株当たり100リットル)、剪定区(地上0.5mの高さで切断),土壌混入及び剪定区(以下併用区という),対象区の4処理とし,植栽は2003年3月28日に実施した。調査は同年12月に行い,枯損本数,樹高,当年度伸長量等を測定した。
3.結果と考察
(1)気象
植栽後の5月は無降雨日数が26日間となるなど記録的な高温乾燥状態が続いた。一方,7月及び8月は気温で1_から_2度低く,降水量では平年よりやや多めに推移し,春は高温乾燥,夏は寒冷多雨傾向であった。
(2)生存率
ケヤキの生存率は,併用区で最も高く9割を超え,土壌混入区及び剪定区で7割となり,対象区と比べて2倍以上となった。エゾイタヤでは併用区が9割,対象区では2割未満となってその差が顕著に表れた。また,土壌混入区が剪定区を上回った。カシワの生存率は併用区と土壌混入区が9割を超え,剪定区と対象区が7割となった。シナノキはいずれの処理区も9割を超え,ポット用土が生存率にプラスに作用したと考えられる。一方,混交植栽したクロマツは,本県の海岸防災林造成基準で植栽したものの,生存率は2割未満で大きく枯損した。当地域の2003年5_から_6月の気象は,クロマツの生存率に代表されるように植栽木にとって厳しかったといえる。この条件下で併用区は,広葉樹全ての樹種で9割以上の生存率を示し,対象区を上回った。土壌混入や選定は、乾燥害の回避に有効に作用したと考えられる。
(3)樹高成長
ケヤキは剪定を実施した区がプラス成長,剪定をしなかった区がマイナス成長となり,併用区が最大の成長量を示した。エゾイタヤでは全ての処理区がマイナス成長となった。植栽後の枝葉の展開が他の樹種よりも早く,乾燥による影響が大きかったものと判断される。カシワは,剪定区と対象区がマイナス成長となった。特に剪定区では地上部が枯れ,地下部から後生枝を発生させた個体が半数を占めたため,成長量を大きく減じる恰好となった。樹高成長では,カシワを除き全ての処理区が対象区を上回る結果となり,また併用区が最大の成長量を示した。このことから剪定や土壌混入は,乾燥害を軽減して成長に寄与したものと考えられる。

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© 2004 日本林学会
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