九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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術前に下肢筋力低下を誘発している腰椎辷り症患者の術後状態の検討
*村井 聖*有地 祐人*佐々木 貴之
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p. 29

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抄録

【目的】

腰椎変性疾患の症状の経過として下肢のしびれから始まり、疼痛、筋力低下、膀胱機能障害と徐々に悪化していくのが一般的である。腰椎辷り症の主症状として腰部痛や下肢痛が多く、神経性の間歇性跛行も呈する。臨床場面において、術前に筋力低下がある腰椎辷り症患者の場合、術後改善があまりみられないケースもしばしばある。術前に下肢筋力が低下している腰椎辷り症患者の術後状態を検討するために、当院で集約している腰椎変性疾患の間歇性跛行データベースを用いて報告する。

【対象と方法】

対象は当院の間歇性跛行データベースにおいて、2012年9月から2016年4月の間で当院に入院し、腰椎辷り症と診断され手術を施行した患者144名(平均年齢66.3±11.2歳、男性64名、女性80名)とした。患者には説明し同意を得た。調査項目は、理学的検査よりMMT(大腿四頭筋、前脛骨筋、足趾伸筋、腓腹筋)、Kemp徴候、SLR、ラセーグ徴候、大腿神経伸張テスト(FNST)、膝蓋腱・アキレス腱反射を選択した。歩行状態の指標として、術前と術後2週後にトレッドミルを使用し最大500mの間歇性跛行の検査を行い、その時の歩行速度、最大歩行距離、安静時疼痛(腰部・殿部・大腿後面)の有無について調査した。上記の下肢筋全てのMMTが5(Normal) である群と4(good)以下である群の2群に分け、前者を筋力正常群64名(以下正常群)と後者を筋力低下群80名 (以下低下群)として検討した。2群間において、術前後の比較として1) 正常群術前と正常群術後、2)低下群術前と低下群術後、筋力での比較として3)低下群術前と正常群術前、4)低下群術後と正常群術後の4つに分類しt検定を用いて各値を統計学的に分析した。

【結果】

手術前後の比較として1)と2)では、術後にKemp徴候と疼痛(腰部、殿部、大腿後面)が有意に改善し、歩行速度、歩行距離もそれぞれ有意に増加した(p<0.01)。2)のみ足趾伸筋と腓腹筋が術後の方が有意に大きかった。3)ではアキレス腱反射が歩行前後左右の下肢にそれぞれ有意な差がみられた(左p<0.05、右p<0.01)。4)ではKemp徴候、ラセーグ徴候、FNSTの神経症状が正常群の方に有意に陰性傾向であり、歩行後アキレス腱反射も正常群の方が有意に正常であった(左右p<0.01)。

【考察】

1)2)より手術による椎体間の固定や神経根の除圧により馬尾・神経根症に関連した腰部・下肢痛が緩和、かつKemp徴候が改善され、結果として2群とも術後歩行状態は改善している。2)3)より低下群術前の筋に何らかの異常がある可能性が示唆される。4)で示す術後2群よりKemp徴候、ラセーグ徴候、FNSTが有意差を認めている。これらは神経根の圧迫様式により神経根圧排徴候と神経根絞扼徴候に分類されるが、手術により神経根は除圧されているため、術前炎症による神経の易刺激状態が持続していると考える。さらに歩行後のアキレス腱反射にも有意差があり、筋の耐久性低下など何らかの間歇性跛行症状が筋力低下群の術後に残存している可能性が示唆される。そのため腰椎辷り症の症状が進行する中で筋力低下が誘発する前に外科的処置を行うことは重要である。以上より筋力低下を誘発している腰椎辷り症患者では術後歩行状態は良好だが神経の炎症は残存していることが窺える。術後2週後の検査であるため、長期的に見ると神経炎症が治まり予後が変化する可能性もある。その時の指標としてKemp徴候、ラセーグ徴候、FNSTが有効となる。今後の課題として術後3ヶ月など手術の長期的な成績の把握や、X線画像上でのMeyerding分類による重症度分類別での調査を行い検証していきたい。

【倫理的配慮,説明と同意】

対象者に本研究の説明を行い、同意を得たものにのみ評価の一環として実施した。

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