繊維製品消費科学
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登山用肌着の吸水性に関する考察
安田 武田中 宮子山内 和子渡辺 恵子
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1963 年 4 巻 3 号 p. 150-152

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抄録

登山者が, 雨にうたれてぐっしょりぬれたような時に, 気温が低いと, はげしく体温をうばわれて, 凍傷や凍死を招くが, 木綿の肌着 (手袋, 靴下) を着用していた者にくらべて, 羊毛を着用していた者が助かった事例は, 数多く体験されている.しかし, この理由について実験的に検討した報告は殆どみられない.最近, 新聞紙上にも, この問題について, いくつかの解説が行なわれたが, その多くが, 気体の水の吸湿性に関する智識をもとに推量したもので, 現実と一致しない.
本報では, 木綿, 羊毛, およびアクリル繊維の同じ太さの糸を用いて同じ組織のメリヤスが造られ, その吸水性について実験が行なわれた.その結果から考えると, 木綿は多量の水を繊維間隙に吸蔵し, 断熱能が著しく低下する可能性があるのに対して, 羊毛は多量の水を繊維内部の多数の細胞孔隙に吸蔵するにもかかわらず, 繊維表面はぬれにくく, 繊維間隙に水を吸蔵する事が少いので, 肌着が水を吸っても, なお多量の空気を含んでいるから体温をうばうおそれが少いのであろうと思われる.

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© 社団法人 日本繊維製品消費科学会
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