これまで我々は、様々な用途に利用可能な昆虫細胞を用いたタンパク質生産系を構築することを目的に、5種類の鱗翅目昆虫細胞(BmN4、Sf9、High Five、SpIm及びAnPe)のN-グリコシル化特性の比較を行いその類似性を報告してきた。さらにAnPeでは一部に複合型糖鎖が付加する可能性が示唆されたため、2次元糖鎖マップ法を用いてN型糖鎖の構造決定を行い、より詳細なAnPeのN-グリコシル化特性解析を行なった。
2次元糖鎖マップ法により構造決定されたAnPeのN-グリカンは、Sf9と共通な9種類とAnPeのみに同定されたManα1-3(GlcNAcManα1-6)Man3GlcNAc2および2本鎖複合型のGlcNAcManα1-3(GlcNAcManα1-6)Man3GlcNAc2という2種類の計11種類であった。これらの結果から、AnPeは複合型糖鎖合成の最初に働くGlcNAcTIIの活性が強いことが示唆され、その後に続く糖転移酵素群の促進や合成の妨げとなるGlcNAcaseの阻害を合理的に達成できれば、複合型糖鎖を効率よく付加するタンパク質生産系が構築できるであろう。