2016 年 53 巻 3 号 p. 289-293
炎症性筋線維芽細胞腫(inflammatory myofibroblastic tumor, IMT)は,半数の症例にALK遺伝子の再構成が確認され腫瘍性疾患として位置付けられている.しかし,ALK遺伝子の再構成が陰性の症例では,病理学的に類似する炎症性偽腫瘍(inflammatory pseudotumor, IPT)との鑑別が困難である.今回,左側の顔面神経と動眼神経麻痺を主訴とする7歳男児例を経験した.左咀嚼筋間隙に腫瘤を認め,生検組織のHE染色で紡錘形細胞の増加と炎症細胞の浸潤を認めたが,免疫染色でALKは陰性で,in situ hybridizationでもALK遺伝子の再構成は検出されなかった.生検組織の染色体解析において,解析した20細胞中5細胞でt(1;11)(q32;q23)が確認されたため,IMTと診断した.Cyclophosphamide,vincristine,pirarubicin,cisplatinによる化学療法を施行したところ腫瘤は縮小し,治療終了から3年半を経て再発の徴候はない.腫瘍組織の染色体解析はIMTとIPTの鑑別に有用であり,t(1;11)(q32;q23)はIMTの新たな転座である可能性が示唆される.