日本食品工学会誌
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Saccharomyces cerevisiaeによる食品ゴミからのエタノール発酵に関する基礎的検討
プラニートラッタナナン スタシニー木内 崇文馬 克東脇坂 港森村 茂木田 健次白井 義人
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2007 年 8 巻 4 号 p. 257-265

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抄録

地球温暖化対策と枯渇性化石資源代替の観点から, バイオマス由来の自動車用燃料製造に, 近年世界的関心が急騰している.ガソリン代替としてのエタノールにせよ, 軽油代替のバイオディーゼルにせよ, バイオマス由来の自動車用燃料製造において, 持続可能性の見地が重要となる.すなわち, エタノール製造におけるトウモロコシやサトウキビ, またバイオディーゼルにおける油ヤシなど原料作物と食糧との競合, あるいは需要増に対応する土地利用変化による生物多様性の減少などの問題が指摘される.また, 発酵原料化が期待される木質系バイオマスについては, 前処理に要する投入エネルギー削減, 五炭糖の利用に関する技術的課題の克服が必要な状況にある.
著者らは, 炭素源やその他栄養源が豊富に含まれる食品廃棄物を発酵原料とする資源化プロセス, すなわちバイオマスプラスチックであるポリ乳酸やポリブチルコハク酸の原料となる有機酸の発酵法による製造を報告してきた.
再生可能エネルギーであるバイオ燃料を, 食品廃棄物を原料として, ATCC株のエタノール発酵により製造するプロセスを, ビーカースケールで検討した.ここでは, 食品廃棄物を酵素法により糖化し, 得られた糖化液を原料とするエタノール発酵に取組んだ.
4種のATCC株による食品廃棄物由来培地からのエタノール産生能の比較から, 耐酸性を有するATCC26602株を選択し, 食品廃棄物由来の糖化液の糖濃度の影響や, 外部からの新たな窒素源添加あるいは培地滅菌の要不要など詳細に検討した.食品廃棄物由来の糖化液を用いるエタノール発酵において, 至適グルコース濃度は, 12%であった.また, 外部からの新たな窒素源の添加は不要であった.至適培地組成でpH調整を行わない振とう培養によるフラスコ試験の結果, エタノール濃度は, 59.4g/L, 糖あたりのエタノール収率50%が得られた.食品廃棄物由来の糖化液を発酵培地とする際の滅菌について, 滅菌, 殺菌, 無滅菌を比較したところ, エタノール産生およびグルコース消費に, 顕著な差異はみられなかった.フラスコ試験からスケールアップして, 20Lのバイオリアクターを用いた場合 (無滅菌, 30℃で18時間培養) にも, エタノール濃度は, 50.2g/L, 糖あたりのエタノール収率42%が得られた.
無滅菌条件下でも発酵が可能という点は, 食品廃棄物からのエタノール発酵の商業生産に大きな展望を拓くものである.今後は, 発酵形式の検討や, 商業生産に向けたプロセス検討とスケールアップを行う予定である.

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