2023 年 Annual61 巻 Abstract 号 p. 187_1
X 線 CT は,X 線源を⼈体の⼀断⾯に沿って回転させその透過強度を X 線検出器によって検出した後,断層像を再構成する医療画像診断装置である.X 線が対象物体を通過する際に物体との相互作⽤により進⾏⽅向を変える⼀部の X 線を散乱線という.散乱線の影響までを考慮した再構成アルゴリズムを⽤いない限り散乱線は再構成画像上にアーティファクトを発⽣させる⼤きな要因の⼀つとなり,除去する対象とみなされている.しかし,対象物体は散乱線によっても被ばくを受けているので,この情報を捨てることは散乱線による被ばくを無駄にしていると言える. そこで本研究では散乱線を有効利⽤することで,再構成精度の向上及び被験者の被ばく量の低減化を⽬的とする.そのためにItoの提案したニューラルネットワークによる散乱線の利用法を⽤い,さらに規模の大きいデータに対して散乱線の有⽤性を検証する.放射線と物質との相互作用のモンテカルロシミュレータであるEGS5 を⽤いた光⼦輸送計算により,多数の数値的対象物体に対する投影データを⽣成する.投影データを入力とし,対象物体の密度分布を教師データとして,シグモイド関数を持つユニットを中間層に配したニューラルネットワークの学習を行う.直接線のみを用いる従来法と直接線と散乱線を両⽅⽤いる提案法とで真の断層像との相関係数で比較したところ,従来法では0.838,提案法では0.844と精度の向上が確認された.