哺乳類科学
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原著論文
社会心理学理論を基にした野生動物に対する住民意識調査の実施とその検証
―計画的行動理論と野生動物に対する人々の許容性モデルの応用事例―
桜井 良江成 広斗松田 奈帆子丸山 哲也
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2014 年 54 巻 2 号 p. 219-230

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抄録

野生動物と人との軋轢の問題は,全国の中山間地域で共通の問題となっており,その解決のためには,問題の生態学的側面だけでなく,社会的側面についても理解する必要がある.社会心理学は人々の態度や行動を理解・予測することを目的とした学問であり,米国では野生動物管理の社会的側面(ヒューマン・ディメンション)の研究の発展に大きく貢献してきた.一方,わが国では野生動物管理の分野で社会心理学理論が検証されたことはほとんどない.本研究では,栃木県日光市明神地区及び鹿沼市深程地区にて,住民へのアンケート調査を実施し,計画的行動理論と野生動物に対する許容性モデル及び追加要因(行政活動に対する評価,集落の諸問題の深刻度,属性,被害経験)を用いて,住民の被害対策に対する関心や意欲を検証した.その結果,計画的行動理論に関しては,主観的規範(対策をすることに関して彼・彼女が感じる周囲からの期待)のみが両地区で人々の行動意図を有意に説明し,また野生動物に対する不安・心配と態度は,一地区でのみ許容性を有意に説明した.一方,被害経験,年齢などの追加要因が,行動意図や野生動物に対する許容性に対して有意な説明力を持っていることが分かり,人々の行動や意識をより正確に検証するためには,理論を構成する項目以外にも,複数の要因を用いて測定する必要性が示された.今後の被害対策の推進のためには,対策に必要な知識や技術の普及とともに,被害対策が地区の活動として住民に認識されるように,地区全体で取り組むことが重要である.また,普及啓発については,地区全体へのものに加えて,例えば明神では野生動物に対する許容性が低い年配の住民を対象にするなど,地域の特性に応じ,対象者を特定した独自のプログラムを実施することが効果的であろう.

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© 2014 日本哺乳類学会
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