日本公衆衛生雑誌
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地域がん登録事業におけるがん患者の予後情報の把握と提供をめぐる法的・実務的課題
田中 英夫
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2006 年 53 巻 6 号 p. 391-397

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抄録

 がん患者の予後情報を有する地域がん登録資料は,当該地域のがんの医療水準の評価・モニタリング,生存率較差の分析,がん有病者数の推計に,必須の情報インフラとなる。また,届出医療機関に地域がん登録室が精度の高い予後情報を提供することにより,各病院が正確ながん患者の生存率を算出し,患者が診療方針を自己決定することを間接的に支援することができる。しかしながら,登録がん患者の予後調査を実施しているところは,登録事業実施34道府県のうち18府県に止まっており,その中で,届出医療機関に予後情報を提供するための利用規定が用意されていることころは,8 府県に限られている(平成17年時点)。
 地域がん登録室が行う予後調査方法は,人口動態死亡票の目的外使用(統計法15条 2 項)と,住民基本台帳法に基く住民票照会または台帳の閲覧がある。人口動態死亡票の目的外使用は,その承認申請手続きや登録がん患者との照合作業に,実務面で相当の負担が生じている。また,住民票閲覧に関しては,本人の同意を得ることが困難であることから,この方法は今後法的に不安定な状況になる可能性が否定できない。
 登録されたがん患者の予後情報を活用し,これを当該地域のがん対策や患者の自己決定に役立てられる体制を整えるためには,地域がん登録事業法の制定と,その中での予後調査に関する法的位置付けを明確にした上で,関連する法律との調整を図る必要がある。

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© 2006 日本公衆衛生学会
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