2004 年 40 巻 5 号 p. 645-649
【目的】当センターでは過去10年間で,鼠径ヘルニア手術後に認められた停留精巣,いわゆる医原性停留精巣(Iatrogenic cryptorchidism) (以下本症)を8例経験したので検討を加えた.【対象および方法】過去10年間で当センターで精巣固定術を施行した停留精巣は661例783精巣で,このうち本症は8例8精巣(1.21%)であった.これら8症例の経過,手術所見より本症の原因,問題点について検討した.【結果】鼠径ヘルニア手術年齢は全例5歳以下で,術後停留精巣の発症までの期間は平均24.25ヵ月であった.発症後,精巣固定術までの経過観察期間は平均34.5ヵ月であったが軽快した症例はなかった.本症では8例中7例に対側の鼠径ヘルニアもしくは停留精巣の合併が認められた.経過,手術所見より8例中5例が鼠径ヘルニア手術時に停留精巣を合併していたと考えられた.手術所見では全例に癒着を認めたが,陰嚢内に固定可能であった.術後,精巣の位置は金側良好で萎縮した症例もなかった.【結語】本症の原因は手術操作,精巣挙筋反射,癒着,報復収縮,術前停留精巣の見逃しが考えられる.当センターの結果では,見逃しが多かった.鼠径ヘルニア手術の際は,停留精巣の合併の有無を確認し,本症が発生しないよう留意すべきである.本症は経過観察しても自然軽快した症例は1例もないため,なるべく早く手術すべきである.手術は癒着のため難渋することもあるが,基本的には陰嚢内に固定可能で,成績も良好である.