オレオサイエンス
Online ISSN : 2187-3461
Print ISSN : 1345-8949
ISSN-L : 1345-8949
総説論文
日本人の脂肪摂取と肥満
田中 幸久岡野 淳関根 一則野村 蘭湯浅 麻奈美米久保 明得清水 精一
著者情報
ジャーナル フリー

2010 年 10 巻 10 号 p. 383-392

詳細
抄録

日本人は諸外国と比較し, 肥満者が最も少ない国民とされてきた。しかし, 肥満が主な原因であるメタボリックシンドロームが定義され, その予防・対策として特定健康診査・特定保健指導の実施が始まった。これらは日本でも肥満が健康上の問題として顕在化してきていることを示している。
戦後, 食生活の質の改善および体位の向上を目指して, 米類中心の食事からタンパク質, 脂肪の摂取を高めるために乳製品や肉類の摂取を薦めた。それに伴い肥満者比率も高まり, あたかも, 脂肪摂取が肥満の第一因であるかのように考えられてきた。今回, 肥満と脂肪摂取の関係について調査を行ったが, 両者を強く結びつけるような疫学調査や論文あるいは研究者の意見を得ることはなかった。たとえば, 最近10年間で30歳代, 40歳代男性の脂肪摂取量は約10%低下しているが, 肥満者割合は10~20%増加している。しかしながら, 健康油や「脂肪分ゼロ」の商品が消費者に広く受け入れられことなどからも, ダイエットには脂肪摂取を控えることが一番であると考える消費者が未だに多いことが窺われた。本来, 脂肪は生体の重要構成成分であり, 生体調節因子でもあり, 安易な摂取量の削減や抑制は健康に重大な影響を及ぼす。その一方で, 食品工学の発達に伴い, 多くの食品に脂肪が含まれるようになった。しかも, 脂肪はエネルギー密度が高く, また, 美味しく執着性があるために脂肪の過剰摂取から肥満に結びやすい可能性が示唆される。健康志向が高まる中, 脂肪をはじめとした栄養素に関する適切な研究, それに基づいた情報発信・商品開発, あるいは学校教育などの機会を通じ, 消費者が上手に脂肪を利用できるように導くことが今, われわれに強く求められている。

著者関連情報
© 2010 公益社団法人 日本油化学会
前の記事
feedback
Top