2019 年 101 巻 1 号 p. 30-34
マツ材線虫病は100年以上にわたって深刻な森林病害であり,植物病理学,昆虫学,森林生態学などの実証的研究に加え,数理モデルを用いた数理的視点に基づく研究が精力的に展開されてきた。マツノザイセンチュウに感染しつつも感染当年には発病枯死しないマツの存在は以前から知られており,このようなマツの存在がマツ枯れ防除をすり抜けて被害拡大の重要な要因になり得る可能性が指摘されている。本研究は,センチュウに感染した翌年に発病枯死するマツを潜在感染木と限定して用い,潜在感染木の存在が健全マツとカミキリの個体群動態に及ぼす影響を数理的に解析する。特に,潜在感染木がカミキリを誘引して健全マツとの接触回数を増加させる効果がマツ枯れ進展にどのように影響するのかに注目した数理的解析を行う。解析結果から,1) 感染後の発病枯死が1年遅れる時間遅れの効果自体はマツ枯れ進展に大きく影響しないこと,2) 潜在感染木がカミキリを誘引して健全マツとの接触回数を高める効果(誘引効果)がマツ枯れ進展に大きく影響すること,が明らかになった。本モデルで仮定した誘引効果の実証的な測定・検証が求められる。