応用生態工学
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事例研究
保全措置として実施したフクジュソウ(Adonis ramosa)の移植
―14年にわたるモニタリングと将来予測―
加藤 絵里子浅見 和弘竹本 麻理子沖津 二朗中沢 重一松田 裕之
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2014 年 16 巻 2 号 p. 77-89

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抄録

福島県阿武隈川水系大滝根川に建設された三春ダムでは, 貯水予定区域内にフクジュソウが自生しており, 冠水の影響を受けることが明らかであった. そのため, 冠水前に, 一部を自生地に残し, 残りを保全措置として冠水しない 4 地点に分けて移植した. 本研究では, 試験湛水前の 1996 年から 2009 年までの 14 年間, フクジュソウの個体群を追跡した. 自生地では試験湛水後, 個体数は増加傾向にあり, 開花個体 (F), 結実個体, 芽生え (S), 幼植物 (J1~J4) も存在していた. 移植地 4 地点のうち造成地は, 移植後, 大幅に個体数が増加し, 生育している面積も拡大傾向であった. 残り 3 地点のうち自生地と同様の落葉樹林下の 2 地点は, 移植後 14 年を経た 2009 年段階で, 開花個体 (F), 結実個体, 芽生え (S), 幼植物 (J1~J4) も生育していたが, 開花個体 (F) 数に着目すると減少傾向であった. 自生地とは立地環境が異なり, 生育に不適と考えられた 1 地点では, 個体数は減少し, 2006 年以降開花が見られない状態であった. 生活史ステージごとに収集したデータを元に, 50 年間のフクジュソウ個体群存続確率を予測した. その結果, 自生地および造成地は長期的に個体群が維持されると予測された. 自生地と同様の落葉樹林下の 2 地点は 15~17 年は維持され, 生育に不適な地点は約 6 年で消失すると算出された. 2009 年のフクジュソウ開花・結実個体数は, 移植時より多い個体数までに回復し, 生育している面積も湛水前の自生地より広くなっている. 今後も少なくとも 2 地点では長期にわたり存続が可能であり, 移植により個体群は維持できると考えられる.

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© 2014 応用生態工学会
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