日本植物病理学会報
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原著
キウイフルーツかいよう病菌(Pseudomonas syringae pv. actinidiae)の新規biovar(biovar 6)の特徴
澤田 宏之近藤 賢一中畝 良二
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2016 年 82 巻 2 号 p. 101-115

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抄録

長野県中部地域のキウイフルーツ栽培園において,Actinidia deliciosa‘ヘイワード’の主幹,主枝,結果母枝にかいよう病様の症状(かいよう病斑からの樹液の漏出,剪定切り口からの菌泥の溢出,樹皮下の組織の褐変など)が発生していたので,2015年4月にその罹病部位から13菌株の細菌を分離した上で,病原学的解析を行った.これらを‘ヘイワード’に接種するとかいよう病様の症状が再現され,そこからは接種菌が再分離できた.本菌はグラム陰性,好気性で1~2本の極鞭毛を有する桿菌であり,淡黄色の円形集落を形成した.さらに,その主要な生理・生化学的性質,ITS,hopZ3hopO1-2を標的としたPCR検定,および7つの必須遺伝子(acnB, cts, gapA, gyrB, pfk, pgi, rpoD)を用いたMultiLocus Sequence Analysis(MLSA)に基づき,本菌をPseudomonas syringae pv. actinidiaeと同定することができた.ただし,API 20NEによる表現形質の検査,hopH3acnBhopH1hopZ5等を標的としたPCR検定,およびMLSA解析の結果を精査すると,本菌はP. syringae pv. actinidiaeにおける既知の4つのbiovar(biovar 1, 2, 3, 5)とは異なることが明らかとなった.しかも,本菌はファゼオロトキシンとコロナチンをいずれも産生するという,これまで植物病原細菌では知られていなかった特異な性質を有していることが生物検定によって確認できた.以上より,本菌を「biovar 6」と命名し,P. syringae pv. actinidiaeにおける5つ目のbiovarとして取り扱うことを提案したい.本研究によって,わが国にはキウイフルーツかいよう病の病原として,biovar 1,biovar 3,biovar 5,biovar 6の4つが分布していることが明らかとなった.また,biovar 6は,biovar 1やbiovar 3ときわめて近縁であることから,これらの起源や成り立ちを検討する際の比較材料としても重要と思われる.なお,biovar 6がファゼオロトキシンとコロナチンの生合成遺伝子クラスターを保持していることから,これらの遺伝子をbiovar 1やbiovar 2の検出・判別の指標として利用するのは適切ではないことが明らかとなった.

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© 2016 日本植物病理学会
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