2021 年 62 巻 5 号 p. 310-315
症例は85歳女性,C型肝硬変合併の肝細胞癌(HCC)に対して繰り返し肝動脈化学塞栓術(TACE),体幹部定位放射線療法(SBRT)を行っていた.C型肝炎ウイルス(HCV)治療としてダクラタスビル・アスナプレビル24週投与を行い,投与終了時にHCV-RNAは陰性化したが,16週後に再燃した.そのため2回目のDirect acting antivirals(DAA)治療として,グレカプレビル・ピブレンタスビル投与を開始した.投与開始時にはChild-Pugh分類Aであり,画像上HCCを認めないことを確認していた.投与開始28日目に黄疸・肝機能障害を認め,入院にて加療を開始したものの,肝機能障害の進行,肝腎症候群に至り入院第13病日に死亡した.剖検所見では広範囲の肝線維化と腫瘍凝固壊死,癌細胞の残存を認め,代償性肝硬変であっても複数回のHCC治療歴があるなどの背景肝へのダメージが想定される場合,重篤な副作用も念頭に治療に当たるべきであることを示す一例を経験したため報告する.