2020 年 74 巻 1 号 p. 57-66
世界的な競争の激化に伴い,紙パルプ企業は製造のコスト削減と製品の品質を向上させることにより重点を置く必要に迫られている。そのなかで,化学薬品の回収プロセスはパルプ工場内での薬品,水蒸気,電力供給において重要な要素であり続けている。つまりパルプ工場の経済的な成長は,効率的かつ最適化されたプロセス運営にかかっている。
薬品回収プロセスにおけるさまざまな系統のオンライン測定用として,提携先のFPInnovationsによりフーリエ変換近赤外分光法(FT–NIR)を利用した分析計が開発された(用途例:①緑液のTTA制御,②清澄緑液のTTAトリム制御とスレーカのフィードフォワード制御,③白液の苛性化率制御,④希黒液成分を基にした蒸解釜のフィードフォワード制御)。
これらの測定はディソルバタンク内TTAの高度な制御から,スレーカのフィードフォワード制御,そして最終的な苛性化率制御まで,制御方策に薬品中の多数化学組成を利用する新たな進歩をもたらした。分析装置の導入と制御方策の実施によってパルプ工場はTTAと苛性化率の目標シフトをより高く置くことが可能になり,概ね40%から60%のプロセス変動の減少傾向がみられた。さらに石灰使用量の大幅削減,圧力フィルタの保守減少,エバポレータや回収ボイラの目詰まり減少などの効果が報告された。ひとつの事例では白液強度の増大と薬品回収プロセスにおけるボトルネックが解消された結果,蒸解釜の生産量が大幅に増加した。工場環境により差異はあるが費用対効果は約500,000ドルから3,000,000ドルの範囲だった。
ここではこの技術について説明し,プロセス分析計を利用した効率的で最適化された化学薬品回収制御によって達成される経済的効果について説明する。