日本薬理学雑誌
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特集:薬物依存性形成メカニズム解明に対する薬理学的アプローチによる最新研究
ストレスによるコカインに対する欲求の増強機構
金田 勝幸出山 諭司李 雪婷張 彤笹瀬 人暉
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2020 年 155 巻 3 号 p. 135-139

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抄録

ストレスは麻薬や覚醒剤などに対する欲求を増強させる.薬物欲求増強は一旦中止した薬物を再摂取してしまう再燃につながると考えられることから,欲求増強に関わる神経機構の解明が重要である.薬物欲求には,腹側被蓋野,側坐核,内側前頭前野(mPFC)などから構成される脳内報酬系に加え,報酬系と密接に関わる脳幹の背外側被蓋核(LDT)が関与する.また,ストレス時には,mPFCおよびLDTでのノルアドレナリン(NA)レベルが上昇する.したがって,ストレスによる薬物欲求増強に,これらの脳部位でのNA神経伝達の亢進が関与している可能性が推測される.そこで,コカイン条件付け場所嗜好性試験(CPPテスト)に拘束ストレス負荷を組み合わせる実験系を考案し,この仮説を検証した.ポストテスト直前に拘束ストレスを負荷することで,CPPスコアの有意な増大,すなわち,コカイン欲求の増強が認められ,この増強はLDTへのα2あるいはβ受容体拮抗薬の局所投与により抑制された.さらに,コカイン慢性投与後の動物から得たLDTニューロンでは,NAにより抑制性シナプス後電流が抑制されたことから,コカイン摂取により抑制性シナプス伝達に可塑的変化が誘導され,これが,LDTニューロンの興奮性を増大させることが示唆された.一方,NAはα1受容体を介してmPFC錐体ニューロンの興奮性を上昇させた.また,mPFCへのα1受容体拮抗薬の局所投与はストレスによるCPP増大を抑制し,さらに,薬理遺伝学的手法によりmPFC錐体ニューロンの活動を選択的に抑制することによっても,ストレス誘発性CPP増大は減弱した.以上の結果から,ストレスにより遊離の亢進したNAがLDTおよびmPFCニューロンを活性化させることで,コカイン欲求行動を増強させると考えられる.したがって,NA神経伝達の制御が,再燃に対する治療薬・治療法の開発につながることが期待される.

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