日本薬理学雑誌
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総説
末梢臓器動態に基づく動物の精神状態の評価
中山 亮太池谷 裕二佐々木 拓哉
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2019 年 153 巻 4 号 p. 161-166

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抄録

精神機能の神経基盤を解明するために,実験動物を用いた多数の行動試験が行われてきた.こうした行動評価法は,動物の行動が精神状態を正確に反映しているという前提を基にして行われるが,実際には動物行動の個体差は大きく,また精神状態も常に変動するため,行動試験のみですべての精神状態を推定するのは困難である.また,個々の神経細胞の生理動態と行動発現を結び付けるには,より高い時間解像度をもって精神状態を推定する必要がある.こうした課題に対して,我々は動物の行動評価に加えて,脳と末梢臓器の電気生理信号を同時計測する実験技術を開発してきた.本技術では,自由行動をしているマウスやラットから,多数の脳波,心拍数,呼吸数,覚醒状態を反映した筋電位,さらに迷走神経の活動電位を同時に計測できる.本稿では,最も汎用される行動試験の1つである高架式十字迷路試験を例にとり,行動試験と電気生理計測を組み合わせることで,生体内部で生じる精神状態を,より高い時間解像度でより正確に推定することが可能になることを紹介する.またストレス研究の一例として,動物にストレス負荷を与えた際の末梢臓器活動に基づき,複数の脳領域間の機能的連関が,個々の動物のストレス感受性と関連があることを見出した知見を紹介する.本研究のように多臓器の生理動態に着目したアプローチはまだ発展途上ではあるが,今後も多数の生理信号を計測し,得られたビッグデータから有用な統計値を検出するような研究アプローチはますます重要になると考えられる.こうした新しい研究知見が蓄積することで,従来は個々の臓器にとどまっていた薬理作用の議論を超えて,全身システムの中で各臓器の位置づけを見直し,神経支配や多臓器連関の観点から治療標的の考察が可能になると期待される.

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